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「お邪魔しまーす!」
翌日、クリスマスイヴの早朝。
セフィロス宅の玄関が、派手に開く音と大きな声がした。
リビングの床に座り込んでいたロゼは、その声に反応し立ち上がると玄関に向かって走っていった。
同じくリビングのソファーに座りテレビを見ていたセフィロスは、軽く後ろを振り返るが直ぐにテレビの画面に目を戻した。
いつも聞き慣れている声とロゼの笑い声が重なり、リビングが騒々しくなった。
「おう、セフィロス。メリークリスマスイブ!」
ニカッと歯を見せながら笑うザックスに、片手で抱き上げられているロゼは楽しそうに笑っている。
後ろからアオイも顔を出した。
「あら、どうしたの?このおっきなツリー……」
ザックスとアオイは、リビング入口横に大きなクリスマスツリーがあることに驚いた。
セフィロスの家に、こんなものが置いてなんて正直信じられない。
いや、以前は……
「ふふっ。あのね、きのうセフィが買ってくれたの」
ザックスの腕の中で、ロゼは嬉しそうに答えた。
それを聞いたセフィロスは、何故か気まずいように顔を背けている。
ツリーは下の方だけ装飾がされ、床に幾つもの飾りが転がっていることから、ロゼがひとりで懸命に飾り付けをしていたと思われる。
「そっか!よかったなぁ、ロゼ」
ザックスは喜ぶロゼの額に、自分の額をコツンとつけて共に笑う。
ふたりの姿を見ていたセフィロスは、ほんの少し目を細め、彼らを一見すると立ち上がりベッドルームへと向かった。
「さて、早速パーティーの準備でも始めますか。キッチン借りるね」
アオイは持ち込んできたたくさんの紙袋を両手に提げ、馴染むキッチンへ向かって行った。
「ねえ、ザックス。手伝ってくれる?」
ロゼは相当ザックスとアオイが気に入っているのだろう。
況してや、セフィロスと違い自分が笑むことにより、同等のものを返してくれる。
アオイも、親身になって接してくれる。
ロゼにとって、二人はセフィロスと同じく家族のように思っていた。
ザックスとアオイも、自分たちに可愛らしく懐くロゼを妹のように思っている。
「よし!夜までに、このツリーをキレイにするぞ」
妹、と言うよりも、まるで子供のように扱う。
何よりもロゼにとって、今が一番幸せな時なのだろう。
リビングでツリーの飾り付けをするロゼとザックス。
暫くするとベッドルームの扉が開き、フォーマルを装うセフィロスが出てきた。
「……ああ、セフィロス。頼んでいた品、届いたから玄関に置いてある」
先程まで笑顔を絶やさなかったザックスが、一瞬で表情を曇らせると静かにセフィロスに告げた。
アオイもそれに気付き、エプロン姿のままキッチンから出てきた。
「もう、行くの?」
同じく、アオイも表情暗くセフィロスに問う。
冷たい空気が流れる三人を、ロゼは何も解らず黙って見ていた。
「ああ。ロゼを、頼む」
沈黙を破るようにセフィロスは答えると、玄関へと向かった。
すかさず、ロゼは彼の後を追う。
ロゼの目に入ったのは、丁度扉の外に出るセフィロスの後ろ姿と、左手に持つたくさんの薔薇の花束。
バタン、と扉が閉まった。