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近くの駐車場に車を止めると、ふたりは車を降り、繁華街へと歩いていった。
人通りが多いメインストリートを、セフィロスは辺りを見回さずに真っ直ぐ自分のペースで先を急ぐ。
もちろんロゼが彼のスピードに追いつく筈もなく、懸命にセフィロスの後を走って追う形となる。
セフィロスは、決して人がいる中でロゼと並んで歩こうとはしない。
寧ろ、彼女とは他人のような感覚で距離を置いているのだろう。
時折視線だけを背後に向け、ロゼが後をついているか確認はする。
ふとロゼの足音が消えたのを察知すると、セフィロスは振り返った。
一軒の店先のショーウィンドウに、張り付くように見入るロゼの姿。
セフィロスは溜息を一つ零すと、彼女の許へ向かった。
洋服屋のショーウィンドウには、純白のワンピースが展示されていた。
目を輝かせ、それを眺めるロゼ。
ほんの少し、頬を桃色に染めて。
自分のサイドに黒い影がかかると、我に返り見上げる。
そこには、呆れ顔のセフィロスが自分を見下ろしていた。
「……何をしているんだ」
ロゼはバツの悪そうな表情を浮かべたが、車内でセフィロスが言った事を思い出し表情を明るくした。
「ねえ、セフィ……プレゼント、これがいい」
「っ……駄目だ」
きつい口調で拒まれ、ロゼは顔を俯け呟くように口を開く。
「……でもね、おひめさまのドレスみたいなの」
本当に欲しいのだろう。
横目でワンピースを見ながら、小さな溜息を零す。
「服なら、家にたくさんあるだろう?」
慰めではないが、ロゼを納得させる為、少々煩わしい口調で言うセフィロス。
だがロゼは顔を歪ませ、悲しい表情を浮かべた。
「でも……"ロゼ"のお洋服がほしい……」
"ロゼの"という言葉を聞いたセフィロスは、驚くように目を見開き、彼女を見下ろした。
――――あれらが誰の所有物か、知っているのか?
今羽織っているコートも、中に着込んでいる服も。
当たり前のように毎日着替える服も……
解っていて、敢えて口に出さなかったのか……
「……必要ない」
セフィロスは目を閉じて言い放つと、ロゼに背を向け歩き出した。
ほんの少し瞳を潤ませ、セフィロスの後ろ姿を眺めたロゼだったが、下唇をギュッと噛み締めると、直ぐに走って彼の後を追った。
やがて大きな玩具屋に着いた。
この中からだったら好きな物を選んで良いとセフィロスに告げられ、ロゼは先程のことを忘れるように顔を緩ませ店内を歩き始めた。
それを見送るとセフィロスは近くの壁に腕を組みながら寄り掛かり、瞳を閉じてロゼが選び終わるのを待つ。
――――ねぇ、セフィロス?
聞き覚えのある声に、ほんの少し瞳を開く。
子供の歓声しか伝わらない店内。
気のせいか、と再び瞳を閉じた。
――――ねぇ、セフィロス?……ちょっと、起きてるの?
懐かしい……感覚。
そっと目を開けば、必ず"アレ"がいる……
俯き加減で自分を下から覗き込み、あの瞳で見上げる仕草。
口元に左手を添え、可笑しそうに笑う声。
――――……クリスマスは、一緒に居てね?
"約束"……と言うように、小指を立てる。
半ば呆れながらも、自分も同じように小指を立て互いに絡ませた。
だがそんな"約束の形式"など、ただの慰めだ。
「……裏切り者め」
"アレ"に、それとも、自分に……?
嘲笑いながら、顔を上げ瞳を開いた。
直ぐ視界に入ったのは、黙って自分を見上げるロゼの姿。
「決まったのか?」
暫しの沈黙後、セフィロスはロゼに問う。
口元だけ緩ませると、ロゼは大きく首を縦に動かした。
ロゼが選んだ物。
それは……