時間が経つのは早いもので、夕暮れの紅い陽が射す中、浜辺にはほとんど人が居なくなっていた。
さすがに一日中遊び疲れたのか、セフィロスとザックスとアオイは砂浜の上に足を伸ばして座っている。
だが、浅瀬ではロゼが未だに波とじゃれ合っていた。
"疲れ"と言うものを知らないロゼを呆れるように、時に笑いながら三人は見つめていた。
「ねえ、懐かしいよね。こうしてみんなで海に来るのって」
突然アオイが膝を抱え、呟くように遠くを見ながら言葉を零す。
彼女が何を言いたいのか、残る二人は直ぐに察知する。
「そうだな。考えてみれば、毎年ここへ来てたんだよな……」
ザックスも、思い出すように語り始める。
忘れていたわけではない。
セフィロスを思って、口に出さなかったからだ。
やがて、時が経つにつれて"思い出"に鍵が掛かる。
今日と同じ夕陽を浴びながら、必ず隣に居た。
それが"ロゼ"に代わり、"思い出"が塗り換わっていく。
ロゼの笑い声だけが、ひたすら響いている。
セフィロスは今、何を思うのだろう……
「……過去は、所詮過去だ」
割り切ったようにセフィロスは言うと立ち上がり、丁度波に足を持っていかれ尻餅をつくロゼに向かって歩み寄っていった。
視線だけで彼を追うふたり。
無言で差し出されたセフィロスの手を取り、立ち上がるロゼ。
それは、まるで彼に全てを委ねている象徴にも見えた。
それをセフィロスはよく理解し、ロゼを請け負っている。
そうでなければ、ロゼは彼に懐こうともしないだろう。
「セフィロス、少し穏やかになったな」
ザックスは背後に伸ばす両腕を崩しながらアオイに言う。
砂浜に寝転ぶ彼を見て、アオイはくすりと笑いながら答えた。
「そうね……やっぱり、ロゼの影響は大きいのかしら?」
実際ロゼを手元に置き始めてから、セフィロスの微微たる変化には気付いていた。
義務、責任、自負……そういった複雑な思いだけではないだろう。
ただ、ロゼを愛しいと思う気持ち……
「……私、最近思うんだけど」
急にアオイが顔を俯け、口籠るように嘆く。
瞳を閉じていたザックスは、彼女の口調からして笑えない話だと察すると、軽く目を開き黙って続きを待った。
「時が経つごとに、ロゼが……"あの子"に見えて、くるの……」
擦れていく声。
アオイの言うことは、間違いではない。
だが……
「……偶然、だろ?」
それをわざと否定するよう返し、ザックスは上半身を起こした。
アオイは軽い溜息を漏らす。
「うん……偶然、だよね」
思い出してしまったのか、涙声に変わるアオイを慰めるように、ザックスは手を伸ばし、彼女の身体を抱き寄せた。
消えない痛み。
忘れる筈のない想い。
数年経った今でも、傷は未だ深い。
それが今、セフィロスだけでなく、自分たちもロゼによって救われているという事実。
彼女がどこの誰で、何の為に売られていたかも全く解らない。
それでも、涙も見せず終始笑顔を振りまくロゼは、"希望"を満たす天使…… ――――
「アオイちゃん!ザックス!!」
いつの間に上がってきたのか、ロゼが正面から顔を覗かせてきた。
驚くふたりを、ロゼは可笑しそうに笑っていた。
セフィロスも再び砂浜に腰掛けると、両足の間にロゼを座らせる。
夕陽が水面に映るのを目にしたロゼは、キラキラした宝石みたい!と叫びながら瞳を輝かせていた。
「……この海はどこまでつながっているの?」
突然、ロゼが妙な質問をし出した。
ザックスが微笑みながら、彼女の頭を派手に撫でる。
「どこまででも繋がっているぞ。遥か先の知らない国までな」
ふーん。と答えながら、ロゼは地平線の先を見つめた。
「行き止まりはないからね」
付け加えるように、アオイが横から顔を覗かせた。
その瞬間、ロゼが初めて侘しい表情を浮かべる。
「じゃあ、この海のずっと、ずぅーっと先には……ロゼのママがいるんだ……」
思いもしないロゼの言葉に、三人は驚愕し一斉に彼女を見る。
「っ……ロゼ、あなたっ……自分がどこから来たか、知っているの?」
アオイはザックスを押し退け、ロゼに詰め寄る。
セフィロスも驚くように瞳を開き、彼女の顔を覗く。
ロゼは暫く海を眺めていたが、やがて首を大きく横に振ると顔を俯けた。
言いたくない。
そういうことだろうか?
本当の名前は?
年は幾つか?
親はどうしたのか?
何故、ミッドガルに来たのか?
そして……
"人形"として売られていた理由。
彼女は決して、口を開こうとはしなかった。
幼い、彼女なりの決断なのだろう。
「でも……"ロゼ"のおうちはここだから」
"ロゼ"として今を生きる彼女の家は、正しくセフィロスの許だと主張する。
重く沈んでゆく夕陽が、間もなく闇を導く。
計り知れない個々の傷の重みは、いつかは消えていくのだろうか?
迫り来る闇を、光で浄化できるように……
――――過去と、そして現在
クロスさせても、過去を消すことは出来ない
憎い感情と共に、現在を生き抜く……
To Be Continued
2006-10-22