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「ロゼ、あまり深くまで行くと溺れるぞ」
はしゃぎ過ぎて服が濡れてしまった諦めのせいか、ロゼは海水が肩まで浸かるほど先へ進んでいく。
セフィロスも太腿まで浸かりながらも、興味深い彼女の進行を妨げた。
彼に担ぎ上げられ自由を奪われたロゼは、もっと先まで行くんだ、と足をバタつかせる。
何度も繰り返す彼女の行為に、気付けばすっかり浜から離れてしまった。
一旦暴れるロゼを落ち着かせる為に、一番近い岩場に彼女を下ろした。
「あれ、アオイちゃんは?」
今迄気が付かなかったのだろうか。
ロゼは周囲に誰も居ないことに気付き、辺りを何度も見回す。
おまえのせいだ。とは口に出さないが、心中呟きセフィロスもロゼの隣に腰掛けた。
浜とは異なり、閑散な空気。
時折、波の弾く音が響くが、それがまた和やかに思える。
人の多い場所が嫌いなセフィロスにとって、ある意味この場所に迷い好ましかったのかもしれない。
大きな深呼吸をし、ふとロゼに目を向けた。
腰掛ける岩場に両手をつきながら、海水に浸かる足で水を弾いたり渦を作ったりしている。
心底、楽しそうに笑顔を絶やさない。
一体、何がそんなに快いのか?
面倒臭い、鬱陶しい、煩わしい……そんな感情すら知らぬような彼女の心。
ああ、そういえば"アレ"も……
「……ロゼ」
己の名に直ぐ様反応し、警戒もなしに見上げる。
未だ"サラ"のこの身体。
少女を犯し、己を慰める餌にするつもりはない。
では、一体何故ロゼを手に入れたのか?
下唇を軽く噛み、強く思考する。
その表情が歪んでいたのか、気付けば下からロゼが不安そうに見上げてきた。
「セフィ……?おなか、いたいの?」
体調が悪いとでも思っているのか?
そんな単純なものだったら、どれほど良いことか……
「……来い。ここの岩に両手をつくんだ」
セフィロスはロゼを岩から下ろし、身体を反転させると両手をつかせた。
何か新しい遊びが始まるのか、と心を期待させるロゼは頬を赤く染め上げる。
純情なる服従。
あまつ剰え、己の存在意味すら知らぬ。
「んっ……」
小さな、ほんの小さなロゼの声。
背後から抱き締めるセフィロス。
力を強め、ロゼの長い後ろ髪を上げ、覗くうなじに舌を這いながら唇を押し付けた。
冷たい海水に、温かい身体。
いつもベッドの上でする行為を、初めてそこ以外でしてくれる。
ロゼは、彼に抱き締められるのが何より好きだった。
言葉は一切ない。
だが"抱き締められる"と言うセフィロスに出会うまで知らなかった行為を覚え、温か味のある"何か"に幸を抱いていた。
「セフィ……ん……くすぐった……」
いつもと違う感触。
強く抱き締める、と言うよりは身体を強く押し付けてくる。
その圧力にロゼの支える腕は崩れ、全身で岩に寄り掛かっている形となった。
やがて、セフィロスの手がロゼの衣服をずらし中へと侵入してくる。
「あっ……セフィ……冷たい」
「っ、黙れ!」
ビクッと身体を反応させるロゼ。
胸に直で触れるセフィロスの手がとても冷たく、暑い気温の中でも震えを感じた。
それが、彼から伝わる手の冷たさかは定かではないが。
「っ……」
背後から聞こえるセフィロスの苦しそうな声。
振り返ろうとしても動く事も出来ず、今彼がどんな表情を浮かべているかは解らない。
だがその声が苦しいだけではなく、何故か侘しくも捉えられた。
進んでいくセフィロスの手。
味わったことのない感触に恐れを抱きながらも、ロゼは必死で耐えた。
身体の一部分が、やたらと熱い……
セフィロスが我を返した時には、既にロゼは上半身を岩の上に置くような状態だった。
荒い呼吸を繰り返し、遠くを見るロゼ。
軽々と彼女の腹に片腕を入れ向かい合わせると、虚ろな瞳でセフィロスを見つめる。
――――独りにしないで
――――傍に居て
淡い桃色の唇が、今も尚鮮明に言葉を刻む。
変わることのない、"アレ"の声が脳内に響く。
いや、これは現実か……?
ロゼの背中を岩場に押し付け、彼女の頬に優しく触れる。
教えたつもりはないが、セフィロスの手に重ねるようにロゼの手が被さった。
瞬間、ロゼを引き寄せ唇を奪う。
軽く互いの歯がぶつかるような音がしたが、痛みだとかそんなものは一切気にならない。
ただ、惨めにも貪るように"ロゼ"が欲しい。
どちらのものか判らない唾液が、ロゼの唇から零れ落ちる。
未だ絡みを憶えきれていない、ぎこちない行為。
それでも、一方的のようにセフィロスは唇を容赦なく離さない。
「……はぁ……ん、セ……フィ……?」
漸く、酸素を取り入れることが出来た。
力なく岩上に凭れるロゼは、虚ろな瞳でセフィロスを見上げた。
肩で呼吸をし、口元を腕で拭う姿。
そして、冷たい瞳……
「……戻るぞ」
直視するロゼに対し、セフィロスは気まずそうに顔を背けた。
ロゼのスピードに合わせ、ゆっくりと海中を歩き始める。
――――彼のした行為に、何の意味があったのだろうか?
ロゼは心中不思議に思いながら、必死でセフィロスの後を追った。