[Dolls] -rose- | ナノ

【Dolls】-rose-

04. 傷跡 (1/4)

抱える痛み
消えない痕跡

何故、おまえはそれしか残さなかった?

酷く俺を恨み、そして"無"に帰る
失った苦しみは、生涯終わりなく心に棘を刺す

重みを増す想いは、儚く惨め……


だから俺は、人形に同じ傷跡を残す









第4話【傷跡】
〜reproduction〜







ギラギラと、燃え上がるような灼熱の太陽。
歩くだけで汗が零れ落ちる。


「こう毎日暑いとやってられないなぁ」


デスクの椅子に豪快に寄り掛かりながら、両手で仰ぐザックス。
それをセフィロスは、煩わしそうに横目で睨みつけた。


「……そう睨むなって」



ロゼが"人形"として買われた事実を知り、ザックスがセフィロスに憤怒して以降、あまり良い関係を保てなかった。

長い事、共に任務をこなしプライベートだってそれなりに居る。
だからこそ、この気まずい関係を何とかしたいと思っていたザックス。

だが元々口数が少なく、感情すら表に出さないセフィロスが一体何を考えているかだなんて理解出来ぬ時も暫しある。
それに"あの出来事"以来、更に心を封じてしまった気がした。


あれは、彼にとって悲境だった。
ロゼを手にしたことで、その不幸を乗り越えられていたと思っていたが……

窓から見える晴天の空を見つめながら、ザックスは思い巡らせていた。



「ザックス!セフィロス!」


静寂のオフィスに、激しく扉が開く音と女の叫ぶ声が響いた。
あまりの大きな音に、ザックスは驚き椅子からずれ落ちる。


「……なんだよ、アオイ」


白衣を纏ったアオイが、嬉しそうに室内へ入ってくる。
神羅カンパニー医務室の唯一女医であるアオイは、仕事を抜け出してきたのだろうか、地図を片手にセフィロスのデスクに音を鳴らして置いた。


「ふたり共、夏休みは取った?」


彼らの顔を交互に見回しながら訊ねる。
セフィロスは肩を竦め、ザックスは大きく首を横に振る。
アオイは、よしきた!と声を挙げると、話を続けた。


「じゃあ、みんなで夏休みを取って海へ行くわよ。もちろん……ロゼもね」


"海"と言う言葉を聞いたふたりは、露骨に嫌な顔をする。
セフィロスは面倒な外出は愚か、ロゼを連れ回すことに嫌悪を抱く。
またザックスは、何も暑い時にわざわざ暑い所へ行かなくても……と抗議した。

だが三人の中で一番権力の持つアオイに逆らえる訳も無く、ザックスは渋々了承する。
セフィロスも大きな溜息を落としながら、わかった。と呟いた。


恐らく、アオイなりの思案なのだろう。
セフィロスとザックスの蟠りを取り払おうという考えと、滅多に外へ出ることのないロゼの為に。





もちろんその話を聞いたロゼが、喜ばずにはいられなかった。

帰宅したセフィロスが直ぐその事を伝えると、踊るようにはしゃぐロゼ。
何より外出ができることと、セフィロス含めザックスやアオイと出掛けられる事が彼女にとっての幸。


「ねえ、海って……」


ロゼは言いかけて口を噤んだ。
突如、脳裏に浮かんだ映像。





ゆらゆらと、揺れる床……

壁の隙間から見える真青な絨毯……

見えない視界。

来たところも、行く先も知らず……






「おい……ロゼ?」


顔を俯け黙りこくるロゼが妙で、上着を脱ぎながらセフィロスは目を細め名を呼ぶ。
我を戻したロゼは、煩わしい"それら"を振り払うように、自分で頬を軽く叩いた。


「行きたくないなら、そうアオイに伝えるぞ?」


低い声が頭上から響く。
嫌だ、と言うようにセフィロスの衣服を片手で握り首を横に振る。

思った通りの反応を示すロゼが可笑しく、セフィロスは微笑しながらネクタイを解きシャツを脱ぎ捨てた。
ロゼは、それを黙って見上げる。
その視線に気がついたセフィロスは、ふいに彼女へ目を落とす。


自分に興味を持っているのか、若しくは何かを訴えているのか……

ロゼの輝く瞳は、身体を一刺しにするようだ。

全て何もかも見透かすようなその瞳で、己の恐るべき過去を知ってはどうなるものか?
"汚れ"を知らぬロゼを、破壊し自堕落へと貶めてみたい。

心も身体も、全て我に支配される為に……



「……随分と似たものだ」


軽く目を閉じ、口元を緩ませセフィロスは呟いた。
たった半年と言う短い間に、よくもここまで成長したと痛感する。

自分の"教え"がいいのか、それとも……



「来い……」


セフィロスはベッドに腰掛け、柔らかくロゼを呼ぶ。
飼われる動物のように、躊躇うこと無くセフィロスの許へ寄る。
足の間にロゼを抱き寄せると、妖しい笑みを浮かべた。

半裸となったセフィロスの胸板に手を添える。
夏の暑さで少々汗ばむ彼の肌だが、ロゼは気にせずピッタリと胸板に貼りつく。


「さあ、どれだけ旨くなったか見せてみろ」


その言葉を理解しているのか、ロゼは顔を上げ、セフィロスの顔に近付いた。


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