[Dolls] -rose- | ナノ

【Dolls】-rose-

03. 背徳 (4/4)

――――医務室


俯き押し黙るロゼ。
向かいに座るアオイは、彼女の頭に手を添えた。


「ごめんね、ロゼ……寂しかったんだよね?」


昼間はアオイ宅でひとりで過ごす。
自宅からここまでそれ程の距離はないが、アオイの車で一度しか通った事がないのに、それだけの記憶力でここまで来れたことが凄い。

それとも今日セフィロスが帰ってくると知り、早く彼に会いたいが為の行為なのか?

アオイに慰められ、時折"ごめんなさい"を繰り返すロゼを、少し離れた壁に寄りかかってザックスは見ていた。
彼はセフィロスに対しての不信感を少しずつ抱いていた。


暫くすると、ノックと共にセフィロスが入ってきた。
身体を大きく揺するロゼ。
さすがに、先程のセフィロスの行為に怯えを抱いているのだろう。


「ロゼ……帰るぞ」


無表情でロゼを見下ろし、彼女の右腕を強く握り引き摺るように連れ出す。


「おい……ちょっと待てよ!」


ザックスは入口の扉の前に立ちはだかると、対面になったセフィロスと睨み合いを始めた。


「……退け」

「退かない」

「……何が言いたい?」


怒りを露にしているセフィロスに動じることも無く、ザックスは話を始めた。


「……今更だけど。
一体、どこからロゼを引き取った?」


その瞬間、更に冷たい空気が流れる。
セフィロスはザックスの言いたいことが直ぐに解ったが、敢えて解らないフリをした。


「さっき、ロビーで"ロゼが人形市場で売っていた"と叫んだ奴がいた」


少し声を震わせながら、ザックスは強く問い質す。
瞬間、背後で椅子の激しく倒れる音がした。


「まさか……っ?!」


それを聞いたアオイは、飛び上がるように立ち、口元を押さえる。
セフィロスは目を閉じ、やがて煩わしそうに瞳を開くと重い口を開いた。


「……ああ、そうだ。
コイツは、俺が大金を出して購入した"人形"だ」


セフィロスの答えに、二人は愕然と彼を見た。


「おまえ……正気か?
"人形"を買うって……意味解ってんのか?!」


興奮したザックスは、セフィロスの胸倉を掴んで詰め寄る。
だがセフィロスは微塵も動じず、ただザックスを睨み続けた。


「まさか、ロゼを使って……慰みにでもしてんのか?」

「……だとしたら、どうする?」


微笑を浮かべ冷静に言うセフィロスに、遂にはザックスも限界が来た。


「ふざけんなっ!!ロゼは、アイツの代わりなんかじゃ」

「黙れ!」


これまで冷静を保っていたセフィロスが、特定の人物を出されたことにより大声を挙げた。
さすがにザックスもそれには驚き、掴んでいた胸倉を解放する。


「二人とも、止めて!」


割り込むように、アオイが仲裁に入った。


「ロゼが……ロゼが、見てる」


静かに告げるアオイに、ふたりはロゼに視線を落とした。

不安げな表情を浮かべ、黙って彼らを見上げている。
これまで言い合っていた内容を、全て理解は出来ないだろう。
だが、ニュアンスで大体の事は把握しているのか……



「……ロゼ、オモチャなの?」


桃色の唇が、静かに動いた。

自分は"人形"……それは玩具だということ。
そう認識したようだ。

彼女の問いに皆が言葉を詰まらせ、誰も答えることが出来なかった。



「……行くぞ」


セフィロスはロゼの手を引き、医務室を後にした。





*****





自宅へロゼを連れて戻ると、直ぐにベッドルームへ行き、ベッドの上へ彼女を投げ飛ばした。
恐ろしく身体を震わせるロゼ。


「ロゼ、いつも言っている筈だ。何故、外へ出た?」


転がるロゼの上から、冷たく見下ろすように厳しく問う。
だが、返答をせず顔を俯けるのが気に入らないのか、セフィロスは右手を空中に翳した。

その瞬間、ロゼは身体を小さく丸め込む。


「っ、ごめんなさい!……もう、しないから……だから、たたかないで!!」


これまでロゼに手をあげた事は一度も無い。
だが、この恐れよう……尋常ではない。

翳した手をそっと下ろすと、何も言わず部屋を出て行った。



「ぅ……くっ……ごめんなさ……イイコにしてる……か、ら……すて……ないで……」


布団に顔を埋めながら、ロゼは小さな声で呟いた。

もちろん、それはセフィロスに聞こえる筈も無く……





――――重なる想い、幻想、眩暈……
奇しくも、覚醒するように眠りに誘われる

現実を知りながらも、夢に溺れる罠にわざと落ちる






To Be Continued

2006-10-15


[ Back ]

×
- ナノ -