[Dolls] -rose- | ナノ

【Dolls】-rose-

03. 背徳 (2/4)

――――翌朝


ロゼが目覚めると、セフィロスは出勤の用意をしていた。
眠い目を擦りながら身体を起こす。


「ロゼ……起きたのか?」


彼女の視線に気付き、未だ眠そうなロゼに声を掛ける。
頷くロゼを横目に、セフィロスは鏡を見ながらネクタイを結んでいた。


「セフィ……また、"しゅっちょう"?」


大きな荷物を横に、いつもと違う服装を纏うセフィロスが長期出張に行くことを最近覚えた。
それは、長く彼に会えない寂しさというのも含めて……


「ああ。夜にアオイが迎えに来るから、暫くアイツの家にいろ」


ベッドの縁から足を下ろし、ロゼは寂しそうにセフィロスを見上げ、黙って頷いた。


長い間、セフィロスが不在の時は大抵アオイの家に滞在することとなっている。
もちろんロゼはアオイが大好きである。

だが、それとは話が別だ。

セフィロスは支度が整うと、ロゼの頭を軽く撫でた。
自分を見る、寂しげな瞳が何とも嫌だった。


「……良い子にしているんだ」


感情もなく淡々と言うと、荷物を持ち部屋を出ようとする。
が、その瞬間、右手が小さな力で引かれた。

振り返ると、ロゼが両手で自分の右手を掴んでいる。
恐らく、"行くな"とでも言いたいのだろう。
以前交際していた女共も、"行かないで。"と擦り付いてきた。

そう言えば、"アレ"も……


だがロゼは言葉を発することも無く、澄んだ瞳で自分を見つめてくる。
ロゼには、"女"としての嫌らしさが未だない。
だからこそ傍に置いてやっているが、こういった行動を取られると煩わしい他ない。

無理に振り掃うことも無く、冷たい視線を無言で送る。
言葉は少ししか解らなくとも、物分りの良いロゼはその圧力だけでそっと手を放す。
そして恐らく、二度と同じ行動は取らないだろう。


身体を使わず、仕上げた教育。
いや、調教と言っていいだろう。

"人形"として購入したからには、自分の理想通りの"人形"になって貰わなければならない。
逆らわず、そして深く従う……

それに対して、遣い勝手の良いロゼは、ほぼ理想に達している。

まさか、自分が己の"復讐"の糧になっているとは知らずに……





*****





一週間が過ぎ、セフィロスは任務地から戻った。
同じく、同行していたザックスも横について。

オフィスに着き、報告書を纏める二人。


「なあ、セフィロス。この後、ロゼを迎えに行くんだろ?」


向かいのデスクから、ザックスが顔を覗かせた。
セフィロスは顔も上げずに、軽く肯定の返事を返す。


「じゃあ、オレも車に乗せてくれよ。今日はアオイんちに泊まるしさ」


弾むような声で、両手を目の前で合わせ頼む。
軽く溜息を零しながらも、セフィロスは承諾した。



「つーかさ、セフィロスがロゼを連れて来た時は豪く驚いたけど、今ではすっかりロゼもおまえに懐いてるし。見直したわ」


感心の意を表すザックス。

この半年、アオイほどロゼには会っていないが、幾度か会う彼女は我儘も言わなければ行儀良く振舞っていた。
それをセフィロスが育て上げたのかと思うと、感心する他ない。
彼がこういった事が得意とは思えないが、それが"彼女"への償いだとしたら、あの時から少しはマシになったのだろう。

ザックスは、その思いを強く感じた。





「……外が騒がしいな」


暫くすると、ざわめく廊下が気になった。
事件、と言うよりは何か興味本位のように顔を緩ませ走り行く者が多い。


「うるさい、静かにしろ」


オフィス前を余所見をして喋りながら通った男子職員を捕まえ、セフィロスは威圧を掛けた。
それがセフィロスだと気付いた男は、声を詰まらせ顔を青くさせる。


「何事だ?」


低い声で事態を問い質す。
男は途切れ途切れに返答をする。


「玄関っ、ロビーで……珍しい、人種の女の子が……居ると、聞きまして……」


それを聞いたセフィロスとザックスは、互いに顔を見合わせ、自分たちも直ぐ行くことにした。


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