[Dolls] -rose- | ナノ

【Dolls】-rose-

03. 背徳 (1/4)

神に背いた我
許されることは一生無い

与えられた"罰"

決して逃れる事など出来ない


だが"道徳"など、所詮人間が都合の良いように作り上げた戯言
"アレ"の復讐のように、人形を遣い背徳へと誘う









第3話【背徳】
〜deception〜







月日が経つのは早いもので、セフィロスがロゼを購入してから半年が経った。

言葉すら解らなかったロゼだったが、呑み込みが早いのか、それなりに日常会話が出来る程となる。
当の持ち主セフィロスが多忙の為、ロゼは滅多に家から出ることはなかったが、ザックスやアオイから与えて貰った本に興味を示し終始読んでいた。

ロゼがいつも読書をする時は必ず、ミッドガルの景色が一望出来る窓に寄りかかるように座る。
それが、彼女の指定席と言うように。





カチャカチャと、玄関から金属が響く音が聞こえた。
ロゼは瞬時に反応すると、音の聞こえる方へパタパタと走り、玄関脇の柱の影からじっと覗くように身体を密着させる。
以前ドアの目の前で待っていたところ、絶対自分だとは限らない為、無防備に出てくるな。とセフィロスに叱られたことがあったからだ。
ドアが開いたと同時に、ロゼの表情は一層明るくなった。


「おかえりなさい!」


覚えたての言葉を張り上げ、嬉しそうに飛び込んできた。
腹部の高さまでもないロゼの小さな身体が、セフィロスの足元に絡み付いている。

俄かに口元を緩め、彼女の頭を優しく撫でる。
そうすることで、ロゼは声を出しながら無邪気に笑う。





居間に向かうと、まるで子犬のように後をついてくるロゼ。
もうすっかりセフィロスに懐いている。
と言うより、ロゼはセフィロス以外にザックスとアオイにしか面識がない。
殆どをこの家で過ごし、セフィロスが長期任務の場合のみ、アオイの家で面倒を看てもらっている。



セフィロスが風呂に入っている間、ロゼは再び窓に寄り添い本を開く。
何度も読み直している本だったが、お気に入りなのか、いつも目を輝かせながら読んでいた。


やがて、セフィロスが風呂から出て来た。
ロゼは読書をするフリをしながら、本の隙間から彼を覗き見る。

真っ白いバスローブに身を纏い、肌蹴た胸元から覗く筋肉のラインがとても美しく見えるが、まだ"女"としての感性が無いロゼは、そんなことよりも早く構って貰えることに胸を弾ませていた。

セフィロスは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと喉へ一気に流し込み、ボトルを片手で押し潰しゴミ箱に放る。
何も言わずにベッドルームへと足を運ぶと、それを待ち兼ねていたようにロゼは読み掛けの本を横に置き、軽い足取りで後を追った。





窓から覗く月明かりを眺めながら、セフィロスはベッドの上で足を伸ばし煙草を吹かしていた。
その横に並ぶように、ロゼは毛布を捲り中へ潜り込んだ。

何かを見る、セフィロスの悲しげな瞳……

毛布から顔を出したロゼは、セフィロスの横顔を見上げた。
家にいる時は毎夜、思い詰めたような表情で月を眺める。
それが、彼の習性であるかのように。


「……どうした?」


ロゼの視線を感じたセフィロスは、含んだ煙を彼女から逸らすように吐き出す。
彼の問い掛けに、ロゼは黙って首を振った。

特に変わった要素はなかったが、何故かセフィロスは微笑すると、吸殻をサイドテーブルの灰皿に押し付け横たわる。
ロゼの身体を反対に向かせると、背後から抱き締めるように自分の許へ寄せた。

その瞬間、頬を赤らめ微笑むロゼ。


「今日は、何を読んでいたんだ?」


背後から囁くように聞こえるセフィロスの声。
普段彼から問われることがない為、ロゼはその問いに素早く反応すると、身体を起こしセフィロスに向かった。


「あのね……"眠り姫"!」


弾むような声で、表情豊かに言う。
見た目で恐らく十代前半だろうロゼだが、まだ言葉を正確に覚えていない事で発言する彼女は、どうしても幼子にしか感じられない。


「またそれか……」


半ば呆れるように呟くセフィロス。
何度か、彼女にせがまれて読んだことがあった。
ほぼ棒読みだったが、何故かロゼはいつも嬉しそうに笑っていた。


「わるいまじょののろいにかかったおひめさまが、おうじさまのキスでめをさまして……」


懸命にストーリーを話し出すロゼに、セフィロスは右手を伸ばし"静かに"と言うように彼女の口元覆うと、再びロゼの体勢を戻し、背後から抱き寄せた。


「……幼すぎるな」


暫く静かな空間の中、突然セフィロスが小声で呟いた。
彼が声を出したことにロゼは気が付いたが、言っている意味が解らなかったのだろう、不思議そうに顔を動かし身体をセフィロスへ向けた。


「ねえ、セフィ……ロゼ、"おそと"行きたい」


身体を反転し、セフィロスの胸板に顔を埋めながらロゼは強請った。
だがセフィロスは、眉間に皺を寄せると軽い溜息を一つ漏らす。


「駄目だ」

「……"おかいもの"も?」


叱られた事により、ロゼの声が小さくなった。
様子を窺うように、目線を少し上げる。


「買い物……?」

「アオイちゃんがね、"おかいもの"おしえてくれるって」


自分が不在の時、いつもアオイが面倒を看てくれる。
だが、以前から外出させないように念を押していた筈だ。


「駄目だと言っている。買い物も、何も必要ない」


冷めた視線でロゼを見下ろすセフィロス。
軽く脅える彼女の身体を、強く抱き寄せた。

徐々に抱き締める力が強くなっていく。
圧迫感に苦しみながらも、ロゼはそれに耐えながら心配そうにセフィロスを見つめていた。


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