[Dolls] -rose- | ナノ

【Dolls】-rose-

02. 幻覚 (3/4)

*****



セフィロスは、気が気でなかった。
いつもは冷静に、また表情を一つ変えずに仕事をこなしていたが、今日に限っては顔色を度々変えていた。





―――― …………


窓から差し込む朝陽。

その眩しさに、セフィロスはゆっくりと瞳を開く。

軽く響く頭痛。
片手で頭を抑えながら起き上がった。

服のまま、寝てしまったのか。
自分を起こすように、両手で軽く自分の頬を数回叩いた。

ふと、視線を横に向ける。

すやすやと寝息を立てる"人形"……



一瞬、夢かと思った。

少しどころか、大分酔っていたのだろう。
そう言った名目の下、身の知らぬ"人形"を購入し、挙句の果てに"ロゼ"と名付けた。

冷静に考えれば、ありもしないこと。
自分のした愚かさに、嘆くように大きな溜息を漏らす。

だが、省みたところで今更どうしようもない。
ゆっくりと、ロゼに視線を映す。



酔っていても、忘れてはいなかった。
何故、この"人形"を"アレ"と思ったのか。

似ても似つかない……


ロゼの瞳が、ゆっくりと開いた。
セフィロスを視界に入れると、ニコッと嬉しそうに微笑む。
愛らしいその笑顔に、セフィロスはつられて口元を緩めた。

時計を見れば、直ぐに出勤しなくてはならない。



仕方なく彼女に、必要な食を与えて出勤してきた。

それが、今……





オフィス内の自分専用のデスクに座り、両肘を立て、その上に顔を俯かせるように乗せる。
その姿を見たザックスは、少々驚きつつも彼に近付いた。


「おいおい、セフィロス。どうした?
あー……さては昨日飲み過ぎたか」


普段とは格別に違うセフィロスの態度に、ザックスは突っつくように声を掛けた。
セフィロスは煩わしそうに顔を上げたが、何かを思いついたかのように彼の腕を強く掴んだ。





*****





「なっ……セフィロス、どうしたんだよ。この子……?」


定時を過ぎ、半強制的にセフィロスの自宅に連れて行かれたザックス。
ベッドに行儀良く腰掛けるロゼを見て、驚きのあまり声を挙げる。


もちろんその筈。

セフィロスが、幼き少女を自宅に置いておくなど在り得ない。
仕事以外でも長い付き合いのある彼を、よく理解している。

黙って外方を向くセフィロスを見ながらロゼを見るザックス。
きょとん、と気抜けしたようにザックスを見上げるロゼ。



「……で。一体この子、どうしたんだよ?」


落ち着きを取り戻したのか、ザックスは冷静にセフィロスに問う。
セフィロスは一瞬、瞳を泳がせたが簡潔答える。


「……事情があって引き取ったんだ」


後ろめたさがあるのか、セフィロスは直ぐにザックスから身体を背ける。
気難しい顔をしていたザックスだったが、暫くして自分の頭を掻きだす。


「……つーか、面倒看れんの?」

「だから、おまえに言っている」


あっさりと答えるセフィロスに、ザックスは驚愕した。


「はあぁぁ?!オレだって面倒なんか看れないぞ」

「何も、おまえが看ろとは言っていない」


じゃあ、何だよ。と付け加え、セフィロスを睨みつける。


「おまえの"女"が居るだろう?」


勝ち誇ったかのように、ニヤリと口角を上げるセフィロス。
そう来たか、と溜息と共に、ザックスは携帯を取り出した。





*****





「うっわ、すっごい別嬪さんだね!」


まじまじとロゼを見入る女。

女は黒いセミロングの髪に、同じ色の瞳を持つ。
目鼻立ちがはっきりしていて、すらりと伸びた身長。
強固さな口調からすると、かなり気丈な女性と見える。

ザックスの時と同じく、静かに女を見つめるロゼ。


「うーん……恐らく異国の子だね。色素が違うもの。それに……瞳もね」


ロゼを観察するように、女は診断を始める。


「さっすがアオイ先生、頼りになりますねぇ」


横では、戯けて騒ぐザックスがいた。


「馬鹿言ってるんじゃないの。で、セフィロス。この子がどうしたって?」



アオイは、神羅カンパニー・医務室の女医。
同時に、ザックスの恋人でもある。

セフィロスを含め、三人は長い付き合いだった。


「セフィロスが面倒看るらしい」


何故か、ザックスが答えた。


「えっ?!それ、本当に言ってるの……?」


ザックスと同じような反応を示すアオイ。
馴染みのある二人に詰め寄られるように言われ、正直立場がない。


「……だから、アオイに頼んでいる」


正にロゼの面倒を押し付ける、そういう言い方だった。


「ちょっと、ふざけないで。セフィロスが引き受けたなら、しっかり責任持ちなさい!」


まるで母親が子供を叱り付ける様に言い放つアオイ。
冷たいオーラを放つセフィロスに、はっきりと言い返せるのは彼女ぐらいしかいないだろう。
同時にセフィロスの頭が上がらない、唯一の女性。

ふたりを呆れるように見ながら、ザックスはロゼの隣に座った。
今まで彼らのやり取りを物不思議そうに見ていたロゼは、隣の彼に視線を向ける。
それに気付いたザックスは、歯を見せながら大きく笑う。
それが嬉しかったのか、ロゼも彼の真似をするように歯を見せて笑った。



「おまえら、いい加減にしろよ」


やれやれと言うように、ザックスは未だ言い合いを続けるふたりの仲裁に入った。
一旦口論を止めたセフィロスとアオイは、ザックスを見て驚いた。

彼の膝の上に座り、甘えるようにザックスの首に腕を回すロゼ。
時折あやすように彼女を擽るザックスに、ロゼは楽しそうに声を挙げて笑っていた。


「ふふ……やっぱり可愛いわね、この子」


アオイもそれを見て心和んだのか、ザックスの隣に腰掛けるとロゼの頭を優しく撫でる。
それも嬉しそうに、ロゼはアオイの手を握っていた。

そんな彼らを、肩を竦めて眺めるセフィロス。


「まあ、そんなに手間のかかる子には見えないし。それに、服とか用意する必要もなさそうね……」


アオイがロゼの纏う服に手を掛けた。

はっきりと見覚えのあるワンピース……

一瞬、懐かしい感覚に駆られる。
それは、三人共同時に感じた。

突然押し黙る三人に、ロゼは彼らを見回しては不思議そうに様子を窺った。



「そう言えば……この子、名前なんていうんだ?」


沈黙を破るように、ザックスが極めて明るくセフィロスに尋ねた。
その声に、セフィロスとアオイが我に返る。


「……ロゼ、だ」

「えっ……ロゼ?」


気まずそうに、渋々答えるセフィロス。
もちろん、ザックスとアオイも驚いた。


まさか、"同じ意味"の名を持つ。
これはただの偶然なのか……


セフィロスが付けたとも知らぬ二人は、互いに顔を見合せる。
小さな沈黙が訪れた。


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