[Dolls] -rose- | ナノ

【Dolls】-rose-

01. 転生 (4/4)

「さあ、お客さんだよ。良い子に振舞うんだ」


店主は、セフィロスに見えるように"人形"の座る椅子を動かした。
表情を一切変えず、黙ってセフィロスを見つめる"人形"。

セフィロスもまた、黙って"人形"を見つめた。


間近で見たところ、大人ではないのが判る。
幼子ではないが、恐らく"少女"と言ったほうが妥当であろう。
見つめるその薔薇色の瞳は、何の汚れも知らぬ美しきガラス玉。
逸らすことのない"人形"の瞳は、まるで汚らわしい自分の過去を浄化していくようだった。

このミッドガルでは、見たことのない人種。
いや、ある程度の地域を任務で回っているが、このような人種は生まれてから嘗て目にした事がない。

それとも、この"人形"が異常な美しさを持っているのか……?


色んな思考が脳内を駆け巡る。
今まで表情を変えなかった"人形"であったが、"人形"の艶やかな唇が軽く開いた。





――――セフィロス……




その瞬間、セフィロスは目を見開いた。

確実に、覚えのある声。
一瞬だけ映った幻覚。

まさか、この"人形"が自分の名を呼ぶ筈がない。

では、一体……?



セフィロスは腰を屈め、ゆっくりと手を伸ばし"人形"の頬に触れる。
やはり人間であろう、"人形"の小さな体温を感じた。

彼が触れた途端、"人形"は力を緩ませ満面の笑みを浮かべる。
セフィロスの手に、自分の両手を被せた。
彼の手を深く感じるように、"人形"は時折瞳を閉じ微笑んでいる。

ただ触れただけで、何故幸せそうな表情になれるのか?

自分を見つめる"人形"の瞳が、より柔らかくなった。

そっと手を離そうとすると、急に惜しそうな表情を浮かべ、その手を両手で軽く握る"人形"。
一瞬驚いたが、掴まれた手を"人形"の艶やかな唇の前へ差し出すと"人形"は微笑み、静かに手の甲に口付けをする。

甘えるような仕草。
この"人形"を目にしたのは初めての筈なのに、何故こんなにも懐かしく感じ、胸が締め付けられるのだろう……



「……どうだい、決して損はしない人形だろう」


店主の声で、セフィロスは我に返る。
同時に、素早く"人形"から手を放した。


「まあ、名前もなけりゃ言葉も解らない人形だ。そこは、持ち主の調教次第よ」


"調教"……と言う言葉でセフィロスは嫌気が差した。

そう。
"人形"とは、そういう意味なのだから……



「……ふん、趣味が悪いな」


嘲笑うように言い返すセフィロス。
しかし、それに負けじと店主は言う。


「ま、おまえさんが購入しなくとも、誰かの人形になるのは確かだ。
誰が買おうがオレには関係ない……そう思わないか?」


セフィロスの心中を読み取っているのだろうか。
店主は馬鹿にした口調で、彼に背中を向けた。

その後ろ姿を、セフィロスは睨みつけながらもう一度"人形"に視線を向ける。

未だに自分を見つめる"人形"。
それが、何故か"アレ"と重なる。
この"人形"が他の誰かに汚されると思うと、激しい嫌悪を感じた。
セフィロスは、大きな溜息を一気に吐き出した。



「……幾らだ?」

「毎度」


声を弾ませ、振り返る店主。


静かに座る"人形"の膝元には、一輪の深紅の薔薇。
それが、"人形"をより美しく引き立たせていた……





――――忘れもしない、忘れることの出来ない忌まわしい過去
時が止まり、雁字搦めに縛られる記憶

そして今、時が変わり、新たな時を刻む……






To Be Continued

2006-10-01


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