*****
店を出ると、ぱらぱらと振り落ちる白い粉雪。
それに気付き、セフィロスは空を見上げた。
灰色の空から、ゆっくりと舞い落ちる雪。
――――三年前も、こんな雪の夜だった。
大きな樹木。
揺らめくカラダ。
しなやかに……美しく……
"裏切り"
……裏切った?
どっちが……?
……自分?
「くっ……」
脳髄が侵されていく。
痛みだす頭痛を抑えるように、セフィロスは片手で自分の顔を覆った。
少し酔ったのだろうか?
酔いを醒ます為に、暫く街を歩こうと決めた。
さすがに今夜はクリスマスイヴともあって、街中はカップルやプレゼントを片手に急ぐ人々で賑わっていた。
たくさんのカラーを灯したネオンが、煌びやかに光る。
道行く人々は、幸せそうにすれ違っていく。
――――ねぇ、セフィロス。今年のクリスマスイヴは仕事休める?
多忙。
当たり前の日々。
その中でも、当たり前のような存在。
自分も嘗てはそうだったのだろうか。
"幸せ"など、感じたことはない。
だが……
コートのポケットに両手を突っ込み、白い息を吐き出しながらゆっくりと道を進んでいく。
ふと、横に視線を向けたときであった。
賑やかなこの通りとは異なり、暗く澱んだ空間のような狭い通路。
セフィロスは、何故かそこに引き込まれるように足を向けた。
人の気配が全くない通路。
こんな道の先に何があると言うのだろう……
そう思いながらも、心とは別に足が進む。
やがて一軒の小さな店が見えた。
店先のショーウィンドウ。
通り過ぎる筈だった店に、ちらっと視線を向けたその瞬間、セフィロスは思わず立ち止まった。
薄明るいライトに照らされた、一体の"人形"。
金糸のような、長いストレートの金髪。
雪のように白く、透き通るような肌。
ほんのり染まった、桃色の頬。
紅い、艶やかな唇。
そして……薔薇色の瞳。
まるで、本物の人間みたいだ……
セフィロスは、ショーウィンドウに近づき両手を付けて"人形"を見つめた。
静かに座る"人形"の瞳が、自分の瞳を捉えた。
よく見ると、ゆらゆらと揺れ動く"人形"の瞳――――
そう。
"人形"ではなく、人間……
だが、それの足元には"[Doll] for sale"のプレートが。
「……それ、気に入ったかい?」
店のドアが開き、店主らしき男が出てきた。
ニヤニヤと厭らしく笑い、煙草を口に銜えている。
「綺麗な人形だろ。ここらでは滅多に手に入らない代物だ」
吸った煙を吐き出しながら店主は言った。
「人形?……どう見たって人間だろう」
セフィロスは、軽く睨みながら店主に問う。
だが、店主は彼の問いに可笑しそうに声を挙げて笑った。
「兄ちゃん、あんた馬鹿か?本当に知らないわけじゃないんだろ」
蔑むように答える店主。
その態度に、セフィロスは無言の怒りを示した。
だが、店主は慌てることもなく話を続ける。
「まあまあ。外で話すのも何だから、中に入ってよく見てみなよ」
セフィロスの背後に回り、馴れ馴れしく彼の背中を押しながら店主は店内に案内した。