独りになった静かな空間で佇むセフィロス。
空になったグラスの氷が崩れゆくのを、卓上へ片肘を乗せながら眺めていた。
揺らめくカラダ。
しなやかに……美しく……
小さな身体が、沈黙に揺れる。
舞い散る雪が、おまえを消していく。
その唇は、もう二度と俺の名を呼ばない……
軽く閉じた瞳を薄っすら開け、セフィロスはふいに上着の内ポケットから一枚の写真を取り出した。
複雑な表情で、手にした写真を眺める。
あの瞬間から、時が止まった。
俺の手を突き放したおまえが、今も俺の手の中で嘲笑している……
それは、残された俺への怨恨なのか?
「……"裏切り者"、か」
苦笑しながら、呟くようにセフィロスは嘆いた。
静かにテーブルの上に置く写真。
そして胸ポケットから取り出した一輪の薔薇を、その横へと並べる。
――――"アレ"は今、どこで何を想っているのだろう……
空のグラスの氷は、殆ど溶け切っていた。
「何か、お飲みになられますか?」
静かに顔を上げると、年老いたマスターが問い掛けた。
任せる。と告げ、差し出されたもの。
「……ロゼ、か」
眉間に皺を寄せ、露骨に嫌な表情を浮かべたセフィロス。
予想通りなのか、マスターは可笑しそうに微笑んでいる。
「今の貴方にぴったりだと思いまして」
馴染みのあるマスターだからこそ、彼を良く知る事情。
渋々ワイングラスを口につけた。
淡紅色のワイン。
深紅に染まらず、美しく透明感を持つ。
ロゼを口に含ませ、舌で転がす。
ほんのり甘く、しなやかに溶ける。
――――"アレ"も、そういう奴だった……
「今夜はクリスマスイヴですよ。そんな暗い顔をなさらずに」
マスターもセフィロスを思ってか、心配そうに声を掛ける。
煩わしそうに苦笑しながら、セフィロスはゆっくり立ち上がった。
「生憎、俺は神に許されない存在だからな……」
己を嘲笑うかのように笑みを浮かべると、カウンターテーブルにギルを置く。
写真と薔薇を滑るように取ると、再び胸ポケットにしまった。
セフィロスの言葉に、マスターは納得するように優しく頷き、コートを羽織ながら出て行く彼の後ろ姿を見送った。