学校中どころか日本全体をピンクに染め上げる桜。その花を綺麗だと言えるのは、その儚さの意味を知らないからだろう。

「本当に最悪じゃ」

春は終わりと始まりの季節。めでたく始まった人々の頭は、咲き誇った桜のようにピンクで、終わってしまった俺の頭は散って踏みつぶされた、汚い花びらのようだ。

「あぁ、いい気味じゃな。なっさけない」

腹の底から湧き上がる喪失感と怒りにも似た悲しみ。それが涙となって流れ落ちないよう、必死に悪態を吐く。でもそれすら情けなくて、最早自分の感情に名前がつけられなくなった。

「桜なんて嫌いじゃ。全部さっさと散ってしまえ」

苛立ち紛れに桜の木を蹴れば簡単に散ってしまう桜。自分で散れと言っておきながら、その弱さと儚さにまた悲しくなり隠しきれない涙が流れる。

「嫌い嫌い嫌い嫌い。…うそ、好き」

桜の木にズルズルともたれかかり、その根元に座り込んだ。

散るとわかっていても散らないでと願ってしまう辺り、自分もまだ桜の儚さをわかっていなのだろう。



(この桜みたいに)
(散ってしまうのかな)


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