試合前の独特な緊張感が俺は苦手だ。観客からのプレッシャーとも取れる声援や、相手選手から滲み出る闘志。仲間からの応援など、全てが重くのしかかってくるような気がしてしまうからだ。
「柳生さん」
「大丈夫ですよ。私が全て背負います。あなたはいつも通りにプレイして下さい」
緊張感など、綺麗さっぱり吹き飛ばしてしまっているような彼の言葉は、逃げ出しそうな俺の心を優しく包み込んでくれる。
「さぁ、行きましょう」
「ん」
皆に見えないように触れるだけのキスを交わして、歓声に支配されているコートへと一歩を踏み出した。
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