俺の胸にポツンと一つ現れた不思議な気持ち。それが恋心だと知った頃には全てが遅かった。
「えぇのぉ毎日ラブラブで」
「茶化さないで下さい!」
恥ずかしそうに、だけど嬉しそうな笑顔を見せる彼の隣には可愛い女の子。背は彼の肩くらいまでしか無く、髪は腰までの綺麗なストレートを高いところでまとめている。
「俺も恋人欲しいナリ」
「仁王くんならすぐに出来ると思うよ!ね、比呂士くん」
「えぇ。こう見えて彼はとても優しいですからね」
優しいのはお前にだけ…そう言いかけて、その言葉を飲み込んだ。
「誰か紹介してくれんかのぉ?帰り道が一人だと雅治くん寂しいんじゃ」
「ふふっ。仁王くんのこと狙ってる人はいっぱい居るから、明日みんなに聞いてみるね!」
「さっすが柳生さんの彼女じゃき」
無邪気に微笑んでいる彼女がどうしても憎めない。だって彼がとても幸せそうだから。そんな幸せを壊したくない。
「んじゃ、姉ちゃんに買い物頼まれとるけぇ、そろそろ帰るぜよ」
「気を付けて帰って下さいね」
「バイバイ仁王くん!」
幸せそうな二人に背中を向けて歩き出す。胸の中でズキズキと悲鳴をあげる恋心を捨ててしまいたくて、大きなため息をついてみる。けれど出て来たのは、二酸化炭素と塩分のある水滴だった。
「っは……情けな……」
中学生の男子がポロポロと涙を流しながら道を歩く。ああ、何て滑稽なんだろうか。
「好き…好きなんじゃ…」
胸に居座った恋心の行き先は一体どこですか?
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