銀色の髪を風に靡かせ、屋上のフェンスにもたれかかる仁王は、自分が吹いたシャボン玉が消えるのを見て笑う。
「お前さん、シャボン玉の歌しっちょる?」
「“シャボン玉飛んだ、屋根まで飛んだ”ってやつですか?」
「そう。それって、作者の子供が死んで悲しんだ作者が作った歌なんじゃよ」
「初めて知りました」
会話の途中もシャボン玉を生産することを止めないせいで、お互いの姿が見えづらくなる程の量になっていた。
柳生が自分にまとわり付くシャボン玉を払って消せば、仁王はおかしそうに一言呟く。
「柳生さんの人殺し」
「はい?どういう意味です」
「作者が書いたシャボン玉は作者の子供じゃ。シャボン玉を消すってことは、作者の子供を殺すんと一緒だと思わん?」
消されたシャボン玉の穴を埋めるように足されたシャボン玉。次々と生み出されるそれに、柳生には何の思いも浮かばなかった。
「数え切れないほど子供が居るんですよ。一人や二人居なくなっても、減ったことにすら気付かないと思いますが」
「うわ酷い奴」
「では仁王くんは、歩く度に蟻の生死を確認しますか?」
「んなことしとったら、外なんか出歩けんよ」
「シャボン玉も一緒です」
無造作に振った腕の一振りで、数え切れないシャボン玉が消える。そして直ぐ、それを上回る数が生み出された。
「減ったら作ればいいってか」
「その通りですよ」
「じゃあ俺らは?」
「まず作れませんね」
トンチンカンな問いかけをしてくる仁王に微笑みかけ、数歩の距離を詰める。
「仁王くんはシャボン玉が欲しいですか?」
「柳生さんで十分」
手にしていたシャボン玉液とストローを離し、柳生の背に手を回した。
「“シャボン玉飛んだ、屋根まで飛んだ”」
「“屋根まで飛んで、壊れて消えた”」
(壊れて消えないように)
(風からも君を守る)
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