お互いにその気持ちには気が付いているはずなのに、お互いにそれを見ないふりをする。そうして保たれている均衡は友情という名の、おままごとに過ぎないのだろう。
「今日、一緒に帰らん?」
「ええ、いいですよ」
何が“今日”だ。昨日もその前も、きっと明日も明後日も一緒に帰るのに。わざわざ確認をしてまで“友情”アピールをするのが、日課になっていた。
「シャーシン無くなったから、駅前の文房具屋よってもええか?」
「私も丁度駅前の本屋に用事があるので、是非行きましょう」
シャーシン何て腐るほど持っている。何回この誘い方をしたのかが明白になる量だ。そしてそれはあっちも同じ。一週間に一度、本屋に用事がある。本が好きならば有り得ないことではないが、柳生の性格上一つのシリーズが完結するまで、他の作品に手を出さない。そして、今読んでいる作品が完結していないことを、俺は知っている。
「あ、そう言えばブンちゃんに駅前の喫茶店の割引券貰ったんじゃった。期限があんまりないからついでに行かん?」
「寄り道は感心しませんが、暑いですし仕方ありませんね」
ほら。これで立派なデートの出来上がりだ。だけど、臆病者の俺たちは友達同士が偶然駅前に用事があり、偶然割引券を持っていたという偶然を言い訳に使って、いつでも逃げられるようにしている。
「んじゃ、行くかの」
「そうですね」
お互いの距離は約30cm。これが無難な距離だと、勝手に作り上げたものだ。
「暑いですね」
「ん。今度みんな誘って海でも行くかのぉ」
「そうしましょうか」
こんな友情ごっこをいつまで続けるのだろうか。俺たちは何にそんなに怯えているのだろう。それが分からないまま、いつまでももこの美しい友情を保ち続けるのだろう。
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