シトシトと絶え間なく降り続ける雨を、教室の窓ガラス越しにぼんやりと見つめて溜め息を一つ落とす。薄暗い空に退屈な古典の授業がプラスされ、眠気はピークに達していた。

「(仁王……。おい、仁王)」

「(ん…なんじゃ?)」

後ろの席に座っているブン太に呼びかけられ、今にもくっ付いてしまいそうな瞼を押し上げて返事をする。

「(先生が睨んでんぞ)」

「(やべ…。サンキューブンちゃん)」

開きもしていなかった教科書を慌てて開け、ノートに黒板の文字を書くフリをしながらこっそりと外の様子を見ていた。

(そういや、傘持って来とらんかった……)

少し外から目を離した隙に、シトシト降っていた雨は何時しかザァザァと地面を叩き付けるように変わり、心地よかった雨音の面影が微塵もなくなってしまっている。

(ま、どうにかなるじゃろ)

授業終了の時間まであと10分となった頃、仁王の脳は授業を受ける事も傘のことも放棄して眠りについた。





「うわぁー…。更に強くなっとる」

授業が終わり、古典の教師にたたき起こされた仁王はそのまま生徒指導室へと連行され、態度が悪いだの何だのと俗に言う説教を食らっていた。
そのせいで下校時間は15分前に過ぎ、雨足もザァザァからバケツをひっくり返したような勢いに変わってしまっている。

「はぁ…」

「はぁ、じゃありませんよ。それは私の台詞です」

「うぉっ!?」

濡れてしまうことを予想し、憂鬱な気持ちを振り払うようについた溜め息の直後、聞き慣れた優しい声が聞こえて勢い良く振り向く。

「柳生さん……?」

「えぇ」

「待っててくれたんか?」

「もちろんですよ。可愛い恋人を置いて帰れるものですか」

ニッコリと微笑んで髪を撫でてくる柳生に、仁王はくすぐったそうに身をよじる。

「さぁ、帰りましょう」

「あ、傘持っとらん」

「まったく……。梅雨の時期なんですから、折りたたみ傘くらい持ち歩きなさい」

「いやじゃ。めんどい。かさばる」

きっぱりハッキリと拒否した仁王に困ったように微笑みかけると柳生は、鞄から折りたたみ傘を一つ取り出した。

「折りたたみ傘なので結構濡れてしまいますが、一緒に入ります?」

「もちろんじゃ」
 
小さな折りたたみ傘にどうにか入り込み、家までの道のりを歩き出す。

「家寄ってかん?濡れたままじゃ風邪引くじゃろ?」

「そうですねぇ…」

「一緒に風呂はいろ?」

「それが目的ですか」

仁王は、こうやって柳生と相合い傘で帰れるのならば、これからも傘を持って来なくてもいいと思い、小さく笑った。


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