ベタベタに甘やかしてくれるその腕も、優しく愛を囁いてくれるその声も、全ては俺の願望が作り出した幻想だ。現実の彼は俺なんて、これっぽっちも気にしていないだろう。と言うのも彼には、可愛くて小さな彼女がいるからだ。自分と体格も変わらないがたいの良い男のことなんて、好きになる訳がない。

「仁王くん」

「やぎゅー」

こうやって優しく頭を撫でているのは、決して本人ではないのだ。好きになりすぎて、俺はいつしか幻想を作り出して見るようになってしまった。ぬるま湯というか、真綿でジワジワと首を絞められているこの世界に入り浸って、どれくらいの時がたったのだろうか。自分が最後に見た現実が思い出せない。と言うよりも、ここはどこなのだろうか。

「好きです」

「あんがと」

たまにこうやって冷静になって周りを見てみるけども、この世界には柳生以外の物も者も存在していない。そんな認識をもう何回も繰り返している。もっとよく見れば、柳生以外のモノを見つけることが出来ると思うのだが、幻想とわかっていてもこの世界から抜け出してしまうことが怖い俺は、その努力を一回たりともしたことがない。

「仁王くん」

「やぎゅー」

もう何年もこのやり取りを繰り返している気がする。始まりも思い出せなければ、終わりも見えない。自分の首がどこまで絞まっているのかもわからないこんな状態で、俺はいつまで生き続ければいいのだろうか。この考えも何年も繰り返している気がするもんだから、俺は本当に壊れてしまったのだろう。

ああ、どうすればここから抜け出せるのだろう。



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