人と違うことがしたかった訳では無い。ただ、なんとなく髪を白く染めてみた。そして、なんとなくタバコを吸ってみた。なんとなく、家出してみた。なんとなく、なんとなく。

『サイテー!!あんたなんか大ッ嫌いよ!!』

「こっちは最初っから好きや無かったんじゃけど」

なんとなく付き合い始めた彼女に飽きて、なんとなく浮気をしてみた。そうしたら、ありったけの罵詈雑言を送られた。

『あんたなんか死んじゃえ!!』

「はいはい」

なんとなく死ぬのもいいかもしれないな。どうせなんとなく生きている人生だ。さっきまで彼女だった女が去った屋上で、そんなことを考える。

「なにをしているのですッ!!」

「うわっ……」

屋上のフェンスを乗り越えようと、半分まで登ったところで後ろから全力で引っ張られた。そして、そのまま暖かな温もりに包まれる。

「柳生?」

「死なないで下さいッ……」

「何で?なんとなく生きてるくらいなら、なんとなく死んでも同じじゃろ?」

泣きそうな顔で俺をぎゅうぎゅうと抱き締める柳生は、何だか小さな子供みたいだった。

「生きる意味が見つからないのならば、私を好きになって下さい」

「何じゃそれ」

真面目な顔して馬鹿みたいな事を言う柳生に、半ば無理やり唇を塞がれる。

「んぅ…っ…ふ……」

「私を生きる理由にして……死にたくないと思う程、たくさん愛してあげますから……」

知らず知らずのうちに瞳から流れていた涙を拭われ、強く優しく抱き締められる。

「柳生……」

「好きです」

なんとなく……。なんとなく柳生を好きになっても、いいような気がする。と言うよりも、俺はそのために生まれてきたんじゃないだろうか。そんなことを考えながら、柳生の腕の中で涙を流し続けた。


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