屋上を埋め尽くすシャボン玉の大群を生産しているのは、フェンスにもたれかかった仁王だった。
「なー仁王ー」
「なん?」
「シャボン玉うっとい」
「綺麗なんに」
目の前を何十と風にふかれて過ぎて行くシャボン玉を見るのにも、いい加減に飽きた丸井は文句を言う。
「何事にも限度ってもんがあるんだよ。ちょっとなら綺麗かもしんないけど、こんだけあると流石に邪魔なんだよぃ」
「ブンちゃんの言うとおり」
仁王はシャボン玉液が入った容器を屋上から投げ捨てて、自分の周りに浮かんでいるシャボン玉を潰し始めた。
「お前ってさー」
「なんじゃ?」
「やること極端じゃね?」
控えろと言われれば止める。少しだけと言われても凄くやる。仁王の行動には、真ん中という行動が一切含まれていない。
「中途半端が嫌いなんじゃ」
「意外だな」
「ブンちゃんは、人のことなんだと思ってるんじゃ」
「適当な人間」
「そっくりそのままバットで打ち返すナリ」
カキーンと自分で効果音をつけて何かを打つふりをした仁王にのっかり、飛んできた何かをキャッチしてあらぬ方向へ投げ捨てる動作をした。
「酷い。俺の愛がたくさん詰まっちょったんに」
「わー。捨てて正解だ」
泣き真似をする仁王の頭を軽く叩き、屋上の床に寝転ぶ。その隣に仁王が、猫のように丸まって同じように寝転んだ。
「暇じゃのー」
「だな」
ゆっくりと流れていくふあふあとした雲を眺めていたら、心地よい睡魔が近寄ってくる。
「ブンちゃん寝るんか?」
「んー」
「ククッ……お休み」
仲良く手を繋いだ瞼の向こうで、仁王が笑った気がした。
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