人を拒絶するのは、弱い自分を守るためだ。差別が無くならないのも同じ理由。自分の弱い心を守るため、自分と違うものを否定して自分が拒絶されないようにする。嘘を吐くのもまた然り。
「またですか」
「しょうがないじゃろ。向こうが勝手に好きって言って、勝手にふったんじゃ」
左頬を真っ赤に腫らして部室へ行くと、委員会で遅れてきた柳生と鉢合った。
「女性は大切にしないとダメだと、何回言ったらわかるんですか?」
「何回言ってもわからんよ」
女性じゃなくて、柳生を大切にしたい。そう続く言葉を飲み込んで、ジャージにさっさと着替え始める。
「あなた、いつか後ろから刺されますよ」
「出来るもんならやってみんしゃい」
ふんっと鼻を鳴らして小馬鹿にしたような笑いを贈って、ラケットを取り出す。
「……あなたが刺されたら私が困ります」
「……は?」
ガットの調子を確かめるように手のひらを打っていたため、いきなり聞こえてきた異国の言葉みたいな日本語を聞き流してしまった。
「あなたが死んでしまったら私が耐えられない。だから、もう終わりにして下さい。私だけを見て」
「バカじゃろ……」
至極真剣に囁かれた言葉が信じられない。こんな遊んでばっかりの俺のどこを好きになったのだろう。
「バカでもいいです。あなたが私を見てくれるなら」
「バカじゃ……バカじゃ、バカバカバカ」
「自分を隠さないで下さい。素直になって下さい」
「好き……バカが好きじゃ」
最初っから全部バレていたんだと知り、今までの自分をぶん殴りたくなってくる。
「好きです」
「バカ」
ふわりと優しく抱き締めてくれる腕に安心して、今までの自分を嘲笑うことで全て水に流すことにした。
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