この気持ちに色を付けるとしたら、真っ黒だと思う。普通、恋の色といったらピンクだろうけれど、俺の場合は好き過ぎて逆に醜いくらいだ。
「おー柳生さん」
「どうしましたか仁王くん?」
「ここなんじゃけど……」
今度の試合で使う作戦を立てるふりして、近距離まで体を寄せてみる。不自然な動きのはずだけど、文句や不信の一つも言わないで微笑みかけてくれる。
「あ、あの……」
「柳生さん、お客さんじゃよ」
「待たせてしまっていたみたいですね。すいません」
「いいの!!仁王くんとの大事な試合のお話しでしょ?」
この小さくてふあふあしてていい匂いの女の子は、柳生さんの隣にすっぽりと収まっている。まあ、単刀直入に言えば彼女という存在だ。
「柳生さんもう行きんしゃい。可愛い彼女さんを待たせるんは感心せんよ」
「すいませんね仁王くん」
申し訳なさそうに席を立ってさり気なく彼女の鞄を持つ。その一挙一動は、決して俺の物になることはない。その現実から逃れるために、自分の中の真っ黒な恋心を見つめてみた。
「じゃーの」
「さようなら」
「バイバイ仁王くん」
幸せそうな2つの後ろ姿から湧き上がるのは、紛れもないピンク色をしていた。
「あーあ。何で男なんじゃろ」
真っ黒な恋心に頭の中で蹴りを入れて、踏み潰してみる。結果は自分自身が飲み込まれただけだった。
女の子になれなくても、せめてこの気持ちが透明になってしまえばいいのに。そうすれば、また前みたいに友達として気楽に過ごすことが出来るのに。
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