この気持ちは多分、恋とか愛とかじゃないと思うんだ。確かにさ、撫でられるとドキドキしたりするし名前を呼ばれれば嬉しくなる。けど、そういう意味で好きかと聞かれれば違うと即答出来る自信が無駄にあるんだ。

「赤也」

「なんすか柳先輩」

「血がでてるぞ」

サーブ練習のため部活の後自主トレをしていた。その時何度も転んだり跳ね返った球が顔にぶつかったりして、あちらこちらに擦り傷が出来てしまっている。俺自身は気にならないけど、日誌を書くために残っていた柳先輩は、気になったらしい。

「大丈夫っすよ。ほとんどが擦り傷っすから」

「擦り傷だからといって油断してると化膿したり痣になったりするぞ?」

「いやでも、面倒くさいんで」

本当に面倒くさいから傷は放っておいて着替え始める。とりあえずジャージを全部脱いだところで、柳先輩に肩を掴まれた。

「そこに座れ。消毒してやる」

「このまんまっすか?」

「全身に傷を作っておいて何を言う。服が邪魔だろう」

「うー……」

近くにあった椅子に座らされ、消毒液を染み込ませたガーゼを当てられた。

「いって!!」

「我慢しろ。まったく……あまり乱暴に練習するな。その内大きな怪我をするぞ」

「わかっ…わかりました!!だからちょっとゆっくり消毒してくださいッッ!!」

柳先輩らしからぬ乱暴な消毒に身をよじる。あまりの痛さに涙が出てきた。

「本当だな?」

「本当っすよ。怪我する度にこんな消毒されちゃぁ、たまんないっすからね」

「ならいい」

フッと笑うと優しく頭を撫でられ、消毒の手付きもやわらかくなる。その優しさにすこしドキドキしながら大人しく身を任せた。

「終わったぞ。風邪を引く前に服を着るんだな」

「下着一枚で消毒始めたのは柳先輩じゃないっすか」

「何か言ったか?」

素知らぬ顔で日誌の続きを書き始めた柳先輩を軽く睨んでおいて、制服に腕を通す。

「柳先輩はいつ帰るんすか?」

「もう帰るところだ。……赤也、ボタンを掛け違えているぞ」

「え?」

Yシャツのボタンを見ると確かに一カ所ずつズレている。直そうとすると、柳先輩の方が先にボタンを外しはじめていた。

「お前は子供か」

「じゃ、柳先輩は親っすね」

「こんなに手のかかる子供はいらないぞ」

俺の頭を軽くこずいてから、柳先輩は鞄を持ってドアへと歩き出す。それにならって、後ろをついて部室を出た。

「あ、柳先輩」

「なんだ?」

「今度試合して下さいよ!!」

「弦一郎に止められているから無理だな」

「えー!!負けた方が勝った方の言うこと聞くっていう条件でいいですから!!」

「………ならやろう」

「よっしゃ」

条件つけたら話をのんでくれた柳先輩に、多少疑問があるけれども試合してくれるなら、なんでもいいか。

「ぜってー負けないっすよ!!」

「望むところだ」

何やかんやで甘やかしてくれる柳先輩が、やっぱり大好き。でも、恋かと聞かれたら違うって答えるんだろうな。

……きっと。



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