春先にも関わらず、花を散らすように強い雨が降りしきる。
庭の花達を心配そうに見つめていた幸村は、ふと視線を自分の家の門へと向けた。
「……は?」
そこには何故かびしょ濡れになった真田が立っている。一瞬呆気にとられたものの、あのままでは風邪を引いてしまうため慌てて玄関の扉を開けた。
いきなり開いた扉に驚いたのか、少し目を見開いた真田と目が合う。
「何やってんのさ。家の前に居るならチャイムくらい押せっての!!傘も差さずに、風邪でも引いたらどうすんのさ!!」
「あ、すまない。凄く甘い匂いがしてな」
「甘い匂い?」
真田を怒鳴ることと玄関の中に引っ張り込むことに集中していた幸村は、真田の言葉を聞いて首を傾げつつ外の空気を吸い込んだ。
「あ…本当だ。何でだろう」
「多分、“こうう”と言うものだろう」
「え、なにそれ」
「“香”に“雨”と書いて香雨だ。花の匂いが混ざって降る雨のことだったと思う」
幸村に受け取ったタオルで髪の毛や服を大ざっぱに拭きながら言った真田は、記憶を掘り返すように眉間に皺を寄せている。
「へぇ、真田にしてはメルヘンなこと知ってるじゃん」
「蓮二に聞いた……のだったと思う」
珍しく記憶が曖昧な真田に“遂にボケたか?”というような視線を送りながら、濡れた服を脱がせる為に風呂場へと連れていく。
「で、家に何か用でもあったのか?」
「いや。偶然通りかかったら甘い匂いがして、つい立ち止まってしまったんだ」
「真田、お前は馬鹿か?ついでずぶ濡れになる奴が居るか!!」
「すまぬ」
余りにも訳の分からない理由に、思わずタオルを投げつける。着替えを取りに行く為に風呂場から出ようとすると、真田がポツリと呟いた。
「お前の匂いに似ていたんだ」
「ッ……!!」
赤くなった頬を隠すようにその場を立ち去った幸村は、父の部屋から持ってきた着替えを真田に投げつけるのだった。
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