冬から春へと変わる季節の変わり目。そんな不安定な時期に言われた一言は、これまた不安定な心を前後不覚にするのに十分だった。
“アナタが好きです”
ただのダブルスパートナー。悪く言えば、ただの同じ部活の人間。それくらいの認識しかしていなかった相手に突然告白されれば、誰でもその場から逃げ出してしまうだろう。
「意味…わからん…」
自分のどこにこんな体力があったのかと思う程、全力で闇雲に走ってたどり着いたのはくしくも、ダブルスパートナーとして作戦会議を始めておこなった場所だった。
「あり得んじゃろ……。俺んこと好きとか……」
好きという単語を呟いた瞬間、自分の心臓が一つ大きく跳ねたのがわかった。
「いやいやいやいや。そんなことない。俺、可愛い女の子が好きじゃし」
そんな心臓を否定するように言葉を紡いでみるも、脳内で再生されるのは可愛い女の子ではなく、自分より図体のデカい男のことばかり。
「うわぁぁぁあ!!何でじゃ!!何でアイツなんじゃ!!亜紀ちゃんとか百合ちゃんとか居るじゃろうに!!」
グシャグシャと髪の毛を掻き回して頭を抱えても、思い浮かぶのは彼のことばかり。優しい声や表情。柔らかい髪質など細かなところまで思い出す。
「詳細まで記憶し過ぎじゃ、俺のアホ!!これじゃまるでアイツんこと………」
続く言葉をギリギリで飲み込むと、首を勢いよく振る。ここで言葉にしてしまったら、全てを肯定してしまいそうな気がしたので心でそっと呟いてみる。
“好きみたいじゃ”
その瞬間、狙ったように強く吹いた風に目を閉じる。うるさいくらいの風に、思考も何もかも持っていかれて目を開けると、目の前には見慣れた彼が魔法のように現れていた。
「 」
――ああ。春が来ました。
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