柳生という男は、万人受けする容姿と性格である。紳士と呼ばれるに相応しい、柔らかな物腰の態度は老若男女問わずに好かれ、亜麻色の柔らかい髪の毛はそれをさらに際立たせている。それに比べて俺は、好き嫌いがはっきりと顔に出るし、少しつり上がった目は取っ付きにくいと言われる。それに、脱色して痛みきった髪の毛は整髪料で固めてあるので、どこから見ても立派な不良である。

「またサボりですか」

「ありゃ柳生さん」

今日もいつものように屋上でサボっていると、授業中にも関わらず何故か柳生が姿を表した。

「しっかりと授業に出たまえ」

「嫌じゃめんどい。てか、柳生さんは何をしとんの?まさかサボり?」

「違います。先生に頼まれて授業で使う教材を取りに行く途中で、あなたが屋上に居るのが見えたので来たんです」

屋上を駆け抜けていった風に乱された髪を整える指は、男の物とは思えない程細くてすらっとして綺麗なものだ。何となく見つめていると、何故かその指で頭を撫でてもらいたくなる。

「仁王くん?」

「あ、すまん。早よいかんと怒られるんじゃなか?」

「あなたが授業に出ると言うまでここにいます」

むちゃくちゃな事を言い出した柳生は、俺の隣に腰をおろす。

「柳生さんがサボり」

「失礼な。私は仁王くんに説教をしているんです」

無理矢理連れて行くことも出来るはずなのに、それをしない柳生は優しいんだかなんだか。

「私はね、皆が思っているような紳士なんかじゃないです。私だって授業くらいサボりたいですよ」

ぼそりと呟かれた本音に、少し目を見開くと柳生が苦笑する。一際強く吹いた風に目を閉じると、唇に柔らかいものが一瞬だけ触れた。

「な……っ…」

「少し休めましたので私は戻ります。仁王くんも次の授業はちゃんと出なさいね?」

びっくりして動くことの出来ない俺を置いて、校舎内に入っていく柳生。何故キスをされたのかも、何故本音を俺に言ったのかも分からないまま、火照った頬を冷ますのに必死になっていた。


(心臓が破裂しそうに)
(ドキドキしてる)

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