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気に入られたって嬉しくないときもある3
「あんたも逃げな」 「そんなこと出来ません!姉貴を置いていくなんて」 「じゃあ言い方変える、頭達呼んできて」 「でも姉貴は!」 「いいから早く!」 「‥‥はい」
こいつがじじ様が言ってた神威か。おじさんでもお兄さんでもなく同い年くらいじゃん。体も華奢だし顔も厳つくないけど、ヤバい匂いはぷんぷんする。
「仲間呼んでも変わらないよ。それにめんどくさいからやめてほしかったな」 「人を殺すのをめんどくさいって言うな。それにそんな笑顔で殺すんじゃねぇよ」 「これは俺の殺しの作法なんだ。人生の最後は笑顔で送ってやるべきだろう」
だからってあの気持ち悪い笑顔はムカつく。あんな奴にあたしは仲間を殺されたんだ。
「大丈夫、君のことも笑顔で送ってあげるからさ」 「くっ」
言うやいなや飛び込んできたのを、ギリギリのところでよける。まったく、強い奴と殺れるなんて楽しくなってきちゃうじゃん。仲間の敵討ちってことも忘れちゃいないけど。 それにしてもこの止まない攻撃。やっぱり弟子だっただけあってじじ様にちょっと似てる。あたしが反撃するひまないじゃんかコノヤロー。
「二刀流か、珍しいね」 「楽しませてくれてるお礼に紹介してやるよ。右が隼で左が虎ちゃんってんだ」 「奇遇だね、俺も楽しいよ。女なのに強いね君」
あたしの愛刀たちを紹介してやったのにスルーかよ。それにこいつ強すぎる、何発かくらってあたしの体はボロボロなのにこいつは傷一つない。ほんとムカつく奴。
「君地球産?」 「そうだけど、なんか文句あんの」 「地球産の女でこの強さはなかなかだね。君なら強い子供生んでくれそうだよ」 「はぁ?くっ、あんたの子供なんて誰が生む、かっ」
やべ、そろそろ限界じゃないかこれは?それにたいしてあちらさんは子供とか冗談言って余裕だし。やっと何発か当てたのに全くダメージ受けてないし。
「あり?そろそろ限界?」 「はっ。なめ、んなよ!」 「おっと、まだこんな力残ってたんだ。ほんと面白いね君。ねぇ、こんなとこいないで春雨に来なよ」 「行くわけないだろ!ぐはっ」
渾身の一撃も軽々と避けられたし、もうダメかも。あー、最後にツッキーに会っときたかった。
「ま、君が嫌でも無理矢理連れてくけどね」 「え?」
ひょいっと米俵を担ぐように持ち上げられた。こいつ本気であたしを春雨に‥‥!
「放せっ!このやろっ、く、」 「ほら、そんな暴れると傷口ひらくよ」 「んなこと関係な、い!あたしは春雨には行かない!」 「何で?俺と戦うの楽しいって言ってたじゃないか。春雨に行けば強い奴と戦えるよ」
確かにあたしは強い奴と戦いたいし、もっと強くなりたい。だけどそれは守るみんながいるからこそだ。吉原の外に興味はない。それにみんなのことが好きだから。仲間を散々殺した奴についていくなんて無理。
「行かない!はなせ!あたしは吉原にいたいの!」 「頑固だなぁ。でも俺君のこと気に入っちゃったし。しょうがない、ちょっと痛いだろうけど我慢してね」
反応するひまなく、お腹への凄い衝撃であたしは意識を手放した。
面白いもの捕まえちゃったな。相当吉原に依存してるみたいだけど、無理矢理連れてっちゃおう。俺に気に入られたのが運の尽きだネ。 さて、いつの間にか逃げ出したあの子供を探しにいこうか。
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