「お前その足どうしたの?」


そんな簡単で、有り触れた言葉でそいつはあたしに入ってきた。席替えしてから2日くらいは何も話さなかった。変に話しかけられて同情されるよりはずっとましだったから安心していた。のに、あいつは突然あたしとの関わりを作った。


「‥‥靭帯きった」
「ふーん。いつ治んの?」
「1年以上掛かる」
「ふーん」


何なんだこの人は?いきなり話し掛けてきて、質問に答えてやってんのにふーんって。今までは同情か心配をされてきたから、この人は癪に障るけど新鮮に感じる。


「お前女バスなんだろ?もうバスケやめんのか?」
「もう部活やめた」
「それで本当にいいのか?」
「だって、もうバスケ出来ないかもしれないのに見てるだけなんて耐えられない!てか、他人のあたしのことなんてほっとけばいいでしょ!何で何も知らない人にそんなこと言われなければいけないの?あたしの気持ちも分かんないくせに余計な口出ししないでよ!」


気付いた時にはその言葉があたしの口から溢れだしていた。今までなんとか塞き止められてたものが一気に飛び出したようにも思えた。言った後で、自分は最低だと気付いた。これじゃ余裕がなくなって何も関係ない人に当たっただけ。榛名だけではなく周りの人の視線も刺さる。今すぐここから逃げ出したいよ。


「‥‥ごめん」
「あー、別に気にしねぇよ。でかい怪我した後って、余裕がなくなって、イライラして、そんで人に当たっちまうんだよな。俺もそうだったからよ」


同じ、なんだあたしと。否、同じだったんだ。この人がいつ怪我をしたかは分からないけど、それから立ち直って、また野球出来るようにまでなったんだ。


「俺こそ悪かった。もうバスケやれなくなるかもしれねぇなんて知らなくて」
「大丈夫だよ。榛名も怪我したことあるの?」
「おぉ。中学の時に半月板損傷しちまって。お前みたいに1年以上掛かったりしなかったから、わりかしすぐ復帰したけど、俺もあんときかなりグレたからな。怪我のおかげで色々学べたし、新しい仲間もできたし、悪いことばっかじゃねぇぞ。つってもお前はもうやれねぇかもなのか」
「うん。でも、榛名のおかげでちょっと元気出たかもしれない」


そう言ってあたしは口角を上げてみた。久しぶりのことだからちゃんと笑えてるかはわからないけれど。

そうだよ、きっと悪いことばかりじゃないよね。なんてあたしは単純なのかな?話すつもりもなかった人に心を動かされるなんて。でもこんなことを言ってくれる人がいなかったから、しょうがない、よね?



暗い闇の中に射した一筋の光ように














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テーマ「人外ファンタジー」
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