野球の試合は長くて友達は途中で飽きてたけど、あたしは全く飽きなかった。榛名が投げる姿は何度見ても飽きないから。
あたしとは違って走ることができる足を皆は持っている。何であの人達は何の不自由なく駆け回ることができるのにあたしには出来ないんだろう?何であたしの足はこんななの。そんな考えが幾度となく頭を過る。でもそれを榛名がまた振り払ってくれる。試合が終わらなければいいのに。



それでも試合に終わりは不可欠で。気付けば今までグラウンドをバラバラに駆け回っていた選手達は1列に並んでいた。


「終わった、の?」
「あんた真剣に見てると思ったらぼーっとしてたの?武蔵野勝ったじゃん」
「‥‥勝ったんだ」


いくらあたしが応援してなかったとはいえ勝ったのは良いことなのに、あたしの心は素直に喜んでくれない。それどころかどこかもやもやした複雑なものすら感じる。


「榛名に会いに行ってあげなよ」
「いいよ。あっちは疲れてるんだし」
「いいから行くよ」


駄目。今のあたしはおめでとうの一言すら言えない。それなのに強引に友達に連れていかれ、試合を終えて勝利を喜んでいる武蔵野野球部のところまで来た。


「あ、」


それに気付いた榛名がこっちに来る。気付かなければよかったのに。何て言えばいいのかわからないよ。


「榛名お疲れ、凄かったね」
「まぁ今日の相手はそこまで強くなかったからな」


友達と榛名は会話を続けるのとは裏腹にあたしは黙り込む。


「あ、あたしスタンドに忘れ物したみたいだから取ってくる」
「え」


走っていってしまった友達を引き留めることもできず。あたしは榛名と二人残されてしまった。


「見に来てくれてありがとな」
「別に、暇だったから。それより、もうみんな行っちゃったよ、榛名も行った方がいいんじゃない?」


あたし最悪な奴だ。何でこんな言葉しか言えないの。お疲れさまとか、おめでとうとか、凄かったとか。何でそういう言葉は挙って隠れるの。あたしは少なからず勇気をもらったのに、珍しく悲しそうな顔の榛名を元気付けることはあたしには出来ない。それどころかそんな顔をさせたのはあたし。


「ごめん」
「あ、おい!」


我慢出来なくなって、その場から逃げた。つもりだけど松葉杖でそこまで逃げられるはずもなく、榛名に腕を掴まれた。


「何で逃げんの」
「‥‥‥だって、折角勝ったのに喜ぶことなのに、何かもやもやして複雑な気持ちで。祝福の言葉一つ言えないし、榛名に失礼だと思って」
「きっとお前嫉妬してんだな」


嫉妬?あたしが?誰に?無駄な気休めはいらないからさっさとこんな心の醜いあたしなんて突き放して。


「自分は靭帯きって、もう試合なんて出れないかもしれねぇのに、俺は試合に出てしかも勝っただろ。お前はそれが羨ましくて憎いんだよ。自分にはもうそんなこと出来ないのにって」
「‥‥そう、なのかな。仮にそうだとしたらあたし最低な奴だ」
「最低じゃねぇよ。別に俺は、山田に祝ってもらいたくて試合に誘ったわけじゃねぇ。この試合見て、山田の気持ちが少しでもいい方向に向けばいいと思ったから誘ったんだよ。だから山田が何か感じれたならそれでいいわけ。最低なんかじゃねぇよ。寧ろ無理に誘っちまった俺が最低だな」


あたしの頬を伝う生暖かい滴は何?もう涙なんて涸れたんじゃないの?でもこの涙はきっと悲しい涙じゃない。あたし今幸せなんだ。だってこんな醜いあたしのことを考えてくれる人がいる。あたしこんなに幸せでいいのかな。




幸せなんて言葉、あたしには不似合いと思っていた













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