何をするでもなく日々は過ぎていき、榛名の試合を見に行く日になった。途端に何だか面倒臭くなってきて、行きたくなくなったけどついてきてくれる友達もいるわけだから、そういうわけにもいかない。しょうがないかと重い体を奮い立たせ、松葉杖と共に家を出る。



△▽



「どんだけ待たせんの」
「ごめんごめん」


待ち合わせ場所に行けば顰めっ面の友達。この足で出掛けたことないから、思い通りの時間には着けなかったらしい。でもこの足を言い訳にはしない。友達だってあたしのことを気にかけて、足のことを気にかけないようにしてくれてるのだ。あたしには分かる。


「そいや、あんたを誘ったの榛名だったんだね。本人に吐かせてやったよ」
「お陰様で一部の女子には煙たがられるしあんたにも冷やかされるわで、踏んだり蹴ったりだよ」
「でもそんなことどうでもいいとか思ってるんでしょ」
「まあね」


あたしのことなんてお見通しってわけだ。自分を解ってくれる人がいるのは嬉しい。
それからまた下らないことで笑いながら会場に向かった。こんなに笑ったの久しぶりかも。


「到着ー!うわ、思いの外人多いし広いね。亀子ふらふらどっか行って迷子になんないでよね」
「あたしは探す方だっての」


武蔵野の試合は10時からだから、そろそろ始まるかな。さっきまでは面倒臭いとか思ってたけど生で野球の試合見るの初めてだし、結構楽しみかもしれない。適当に空いてる所に座り、試合が始まるのを待つ。少し経ってけたたましいサイレンが響き渡った。


「最初攻めるのどっち?」
「武蔵野だと思う」
「なーんだ。じゃあ愛しの榛名はまだ投げないんだ。あいつ結構凄いんでしょ?2年でエースだしさ」


愛しのとか言ってるのはもう気にしないことにして。榛名がエースだなんて何も知らなかった。あいつ、凄いんだ。教えてくれればよかったのに。

あたしが夕食を食べてる時に父親が見ていた野球の試合を見たことはあったけど、特に熱心に見ていたわけでもないしルールなんてよくわからない。それも榛名に聞いておけばよかったな、なんて今更後悔。打者の後ろの審判らしき人がたまに何か叫んでるけどよくわからない。バスケとは全然違う。攻守が順番に回ってくるところとか物を使ってボールを打つところとかもそうだけど、1番違うのは上を見ると空があること。


「あ、交代するのかな。みんな戻っていくね」
「うん」
「亀子ちゃんと見てんの?次はいよいよ榛名の登場なんだから、ちゃんと見てなよね」
「‥‥うん」


言ってるそばから榛名がグラウンドに出てきた。いつも教室で話している隣の席の榛名元希とは少し違う。それはフェンスを隔てて、結構な距離のあるここからでもわかった。


「おー!榛名登場。応援してあげなよ」
「別にあたしは榛名を応援するために来たわけじゃないし」
「相変わらず冷たいね」


だってそうでしょ。あたしは別に見たいわけじゃない。頼まれたから来たんだ。そんな下らないあたしの考えを振り払うかのように榛名が振りかぶって、投げた。


バシッ


気持ちのいい音と共に、キャッチャーのグローブに吸い込まれていった白い球。相手チームの時は気にも留めなかったけど、何故か榛名のその投げる姿に釘付けになった。2球目、3球目と投げていく榛名から視線を外すことが出来ない。


なんだよ榛名。怪我をしたり、監督に捨てられた過去なんて全部吹っ切れてるじゃん。その過去の榛名をあたしはしらないけど、現在の榛名は前だけを見つめているんだ。あたしも、いつかこんな風になれるかな?




過去を振り返らずに前だけを見る貴方は輝いてすらいました













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