大介さんと一緒! |
夏未と部室でお茶を一杯飲んでからグラウンドに向かう。 あまり時間を開けるとそれはそれで不安だったので。 けれどその心配は杞憂に終わり、和気藹々とゲームをしているのを見て夏未と二人胸を撫で降ろした。 時々聞こえる物騒なやりとりや叫び声も、まぁ許容範囲だろう。 「あら。円堂監督戻ってきてたんですね」 夏未が久遠監督、響木監督の横に立つ大介さんに気づき声をかける。 大介さんはおうと片手を上げたので、夏未は大介さんの元へ。わたしも監督たちの元へ行く。 「もう帰っていらしたんですね。久しぶりの稲妻町はどうでした?」 「それが会う奴みんなに叱られる叩かれるで散々だったわい。心配して損したとな」 「いつもの調子で会いに行ったのならそう言われても仕方ありませんよ」 そんなやりとりを聞きながら久遠監督の横に立てば、久遠監督はわたしを横目でちらりと見た。 「名無し。円堂さんがトレーニングメニューを見たいそうだ。部室に案内してこい」 FFI大会の後正式に雷門中サッカー部の監督に就任した久遠監督。それに伴い冬花ちゃんも編入してきた。 その久遠監督の言葉に思わず聞き返す。 「案内してこいって・・・いいんですか?見せてしまっても」 「雷門の資料ならば構わないだろう」 いくら守の祖父とはいえ、相手はコトアール代表監督。そんな人に大事なデータを見せるなんていいのだろうか。そう問えば久遠監督は雷門中のものならと許可を出した。 部室にイナズマジャパンに関する資料は置いていないものの、どちらもわたしが作ったもの。基本的な理論やメニューなんかはそう変わらないというのに。 ・・・久遠監督が良いというのならば、構わないけれど。 「では大介さん、こちらです」 「おお、すまんな。夏未、ロココが無茶をせんように見ていてくれ。守と一緒だと暴走しそうだからの」 「ふふ。そうですね、解りました。ごんべさんよろしくね」 今度は大介さんと共にまた部室に戻る。 建て直したとはいえ彼が監督を勤めていた頃と変わらない作りに、大介さんは嬉しそうだった。 椅子をずらしたりタイヤを持ち上げたりする大介さんを好きにさせ、棚からファイルを取り出す。それを机に広げた。 「これが雷門のトレーニングメニューの基礎です。これを元に、各選手の能力・体調を加味し作成します。こちらがその一例ですね」 ポジション別の基礎メニューに、比較として数人の選手のデータとそれを元にした専用のメニューを広げる。 大介さんはそれらにざっと目を通し、守用のメニューを手に持ち吟味し始める。 「ふぅむ。随分と基礎を重点的にやっているのぅ」 「サッカーは持久力も瞬発力も必要とするスポーツですし、どんなスポーツでも最後にものをいうのは基礎ですから」 「わしもロココたちを相当鍛えたつもりじゃった。だがあの試合で守たちは急成長を遂げた。それには元になる体力や筋力が必要だが・・・。納得したよ」 必殺技を作り出すにも、元となる土台があってこそだ。 試合中の切羽詰まったときに必殺技を生み出す彼らには、その土台を作ってやるのが一番だった。 「よく出来ている。・・・これが前世でつけた知識か?」 「そうですね。それを元に、新しく学び直し自分なりに構築してみました」 「そうかそうか。・・・のぅ、お嬢ちゃん」 大介さんは資料から顔を上げ、わたしに顔を向ける。 「守の傍にいてくれて、ありがとう」 サングラスに遮られてどんな目をしているのかは解らないけれど、その声色はとても暖かかった。 「儂が死んだことになって、娘はサッカーを嫌った。そんな環境でも守がサッカーを続けてこれたのは、おまえさんがいたからだ」 「守はきっと、わたしがいなくてもサッカーをしていましたよ」 「そうかもしれんな。だが、お嬢ちゃんに支えられたのも事実だろう」 「・・・お礼を言うのはわたしの方ですよ。またサッカーを好きになれました。守のお陰で」 新しく出したファイルを捲っていた手を止めて答える。 サングラスの奥の瞳に合わせるように視線を上げた。 「守がサッカーを初めてすぐは、正直嫌いでした。サッカーはどうしてもあの人を思い出してしまうので。でもあんまりにも楽しそうな守を見ていたら、そんなこと気にしなくなったんです」 サッカーが好きだという根本は変わらないのに、二人はあまりにも違い過ぎた。 全身で全霊でサッカーを好きだと叫び、サッカーについてなら一日中だって語っていられる守。 その姿にあの人を重ね合わせることもなく、次第に応援したいと思えるようになった。 そうして気づいたのは、かつての生では流れで関わり始めたに過ぎなかったサッカーだけれど、いつの間にかサッカーそのものを好きになっていたこと。 「守は大介さんを追ってきたと言うけれど、わたしにとっては守のサッカーこそが、全てなんですよ」 「円堂守のサッカーか」 「はい。そうだ、わたしも大介さんに聞きたいことがあったんですよ」 しんみりしてしまった空気を変えるように、意図してトーンを上げた。 守のタイヤ特訓やイナビカリ修練場、それにリトルギガントの錘。『私』の知識では中学生にさせるには過度の負荷が掛かりその後の筋肉の成長を阻害するハードな練習内容だ。 それらをどういう理論に基づきどんな狙いがあってのことなのかを是非聞きたかったのだ。 「成る程。それはな・・・」 「それは・・・?」 「特になーんも考えとらん!何となくだ!」 どどーんと胸を張る大介さんにああやっぱりと苦笑いを返す。何といっても守の祖父なのだ、そんな気がしていた。 けれど確かにそれで成果も出ているのだから、流石としか言えない。 何でも理詰めで考えるわたしに対し、大介さんはプレイヤーならではの実践的感覚でやっているのだろう。 「大介さん、どうぞ座ってください」 つまり、わたしに足りないものを彼は持っている。 まっさらな紙を用意し、ペンを持つ。 久遠監督が練習内容の開示を許可したのは、こういった意図があってのことだろう。 「色々とお聞きしたいことがあるんです。時間が掛かると思いますから、座ってくださいね」 にっこり笑って席を勧めるれば、大介さんの頬が引くついたのは気のせいだろう。 さて、大介さんが日本に滞在する間にどれだけ聞き出すことが出来るかが腕の見せ所だ。 ___ 櫻さんリク「大介さんとお話のお話」でした。大介さんは感覚的、幼なじみ主は理詰めなイメージがあります。瞳子監督や久遠監督も理論派ですね。祖父と母との会話ももっとそれっぽくしたかったのですが、惨敗しました・・・すみません。監督陣との絡みは自己満だと思い書いていたので、リクいただけて嬉しかったです! 企画参加ありがとうございました! 2011.12.08 Back |