一周年記念企画 | ナノ
奴らが来た!

今日も無事練習を終え帰路につき、途中で一郎太と別れればほどなくしてわたしと守も家につく。


「じゃあ守、よく休んでね。お疲れ様」
「ああ!ごんべもな。おやすみ」


郵便受けに手を掛ける守におやすみと返し、玄関の扉に手を伸ばした時。


「あああああ!!」
「!?」


近所に響き渡るような大声に慌てて隣家に走れば、守が一通の手紙を掲げてキラキラと満面の笑みを浮かべていた。


「ごんべ、じいちゃんから手紙だ!」


いそいそと封を開けた守の横に並び、ちらりと覗き見る。相変わらず象形文字の方がまだマシ、と言いたくなる難解な文字だ。読めない。
そういえば守も昔はかなり字が下手で、ある程度解読可能な文字が書けるようになるまで大変だった。

ざっと手紙に目を通した守は、顔を上げて足踏みをする。


「くぅ〜っ!ごんべごんべっ、じいちゃんとロココが日本に来るって!」
「へぇ。いつ来るの」
「んー。それは書いてないんだよなぁ。早く会いたいな。母ちゃんもじいちゃんに会いたいだろうし」


これ母ちゃんにも見せてくるな!と手紙を握りしめて家に駆け込む守を見守り、わたしもようやく家に入る。
温子おばさんは四十年前に別れて以来だから、念願の再会となるだろう。その日が楽しみだ。






・・・なんて思っていたのだけれど。


「なんで、いるの・・・」


守と一郎太と共に朝練のために登校してみれば、部室の前に。


「遅いぞ守」
「やぁマモル!」
「じいちゃん!ロココ、それに一之瀬たちも!」


大介さんとロココはまぁいい。昨日の今日でもう来たの!?という突っ込みは今は必要じゃない。


「よっ。みんな元気だったか?」
「久しぶりだね円堂、みんな。秋も、心配かけてごめん」
「土門くん、一之瀬くん・・・!」


手を挙げる土門くんに、いつものポーズを取る一之瀬くん。それに目を潤ませる秋。
無事手術を終え、なんとか普通の生活を送れるようになったから会いに来たという彼らもまあいい。
FFI大会ではライバルチームだったが、FF大会そしてエイリア学園と苦楽を共にしてきた仲間だ。その快気はわたしも嬉しい。

が、その後ろに控える残り五人はどうしてここにいるのか。



「やぁ、マモル、ゴンベ。キドウたちも元気だったかい?」
「ハァイ!ゴンベ。ミーたちも来ちゃったよ」
「突然すまないな。カズヤたちがジャパンに行くというから付いてきたんだ」
「レディーたち、お久しぶりですね。大したものではありませんが、私からのささやかな気持ちですよ」
「オレはたまたまこいつらに捕まって連れてこられただけだからな」


明るく陽気なイタリア男フィディオに、初めての日本に浮き足立つディランとその襟首を掴むマーク。
どこで調達してきたのかそれぞれ色の違う薔薇とカスミ草のミニブーケをマネージャーとわたしに渡すエドガー。
その横でエドガーを呆れた顔を隠さず見ていたテレスが、こいつらとフィディオとディランを指す。


話を纏めてみるに、元々大介さん、ロココと他のメンバーは別々に来日したらしい。
日本に行くという一之瀬くんと土門くんにディランとマークが便乗し、ディランからフィディオ、エドガー、テレスに伝わりどうせだからみんなで行こう!となったんだそうな。
そして日本についたわけだが、空港で偶然にも大介さんたちとばったり再会。行き先は同じだからと一緒にやってきたらしい。


「・・・・・・」
「・・・・・・」
「頭、痛ぇ」

頭を抱える雷門サッカー部の常識組。頭痛を訴える染岡に同意である。
来るのは構わない。けれどアポイントメント位とって欲しいものだ。


「名無し。知っていたのか」
「いえ、大介さんとロココが近々日本に来る、というのは聞きましたが・・・昨日です」
「・・・そうか」


あの久遠監督まで頭が痛そうだ。
和気藹々とする守たち。惜しくも代表に選ばれず、テレビ越しにしか見れなかったスター選手たちに興奮する半田たちを余所に、久遠監督の周りには夏未や鬼道くんたち・・・いわゆる常識組が集まり一様にこめかみを押さえるという異様な光景が広がった。


「しかし、これから授業が始まるがどうするんだ」
「円堂大介さんがいるのだから、問題ないだろう」


豪炎寺くんの疑問に鬼道くんが答えるが、それは夏未により否定されてしまう。


「いいえ、問題大有りよ。さっき円堂監督に聞いたら、昔の知人に会いに行くって言っていたわ。・・・ロココたちを置いて」
「置いていくなよ・・・!」
染岡が呻くのも尤もである。確かに四十年ぶりの日本で、会いたい人たちは多くいるだろう。浮島さんたち伝説のイナズマイレブンもその中に入っていることだろうし。
だがこの濃い面子を放置していくとか、どうなの。大人。


「だが授業中どうするんだ。・・・大人しくしているとは思えないぞ」
「ええ、わたしも風丸くんの言う通りだと思うわ。だからお父様にお願いして、今日の授業は休んで彼らの引率に回ります。・・・ごんべさん、協力してちょうだい」
「わたし?守とかのほうが・・・」
「円堂くんはダメよ。あの成績で授業日数まで少なければ進学が危ないの」
「(守・・・)」
「(((円堂・・・)))」
「ごんべさんはあの中の全員と何らかの形で面識があると聞いているわ。貴女が一番適任なの」


確かに、成績だけでいえば鬼道くんや豪炎寺くんでも問題はない。けれどフィディオはまだしも他のメンバーとはそう関わりがない。わたしはその場にいなかったが、天使と悪魔とやらの戦いで共闘した位だという。


かくして、わたしと夏未そして一之瀬くんと土門くん引率による観光ツアーが始まったのであった。


「嘘みたいだ!見てよマーク、このコンビニ24時間って書いてあるよ!?」
「本当だ・・・。カズヤ、日本では一日中働くのが普通なのか?」
「いやいや、お店はそうだけど従業員は交代だから」

「美しいレディーたち、地面に直接座っては身体が冷えてしまいますよ。さぁ、この上着を敷いてください」
「おいエドガー。てめぇ女を見りゃ見境なく声かけてんじゃねーよ」
「おやおや、僻みですか?」
「ああ!?なんだと軟派野郎」
「おいおいやめろって二人とも!」

「ナツミ、あれは何?見に行こうよ!」
「ちょっと待ちなさいロココ!貴方方向音痴なんだから一人で動いたらダメでしょう!?」
「あっ、アイスクリームだ!喉乾いてたんだよね。へぇ、フレイバーもたくさんある。混ぜていいの?」



・・・出来ることなら、他人の振りをしたい。目立っている。とてつもなく目立っている。
何といっても世界のトッププレイヤーたちなのだ。イナズマジャパンとも激戦を繰り広げたため、日本での知名度も高い。
そんな彼らがぎゃんぎゃんやっていれば注目になるのも当然だ。


「疲れた顔をしているね、ゴンベ。はい、甘いものでも食べて」
「ああ、フィディオ。・・・クレープ?」
「そこで売ってたんだ。観光に連れてきてくれたお礼に奢らせて」


パチンとウインクしてクレープを差し出すフィディオ。言葉に甘えて一口かぶりつけば、生クリームの甘さと苺の酸味が口の中に広がり過敏になっていた精神が落ち着くのを感じる。


「美味しい。ありがとうフィディオ」
「どういたしまして。それにしてもジャパンのクレープって具沢山なんだね、驚いたよ」
「イタリアのクレープは違うの?」
「中身はもっとシンプルで、包んでソースをかけてあるんだ。でもこうして持ち歩き出来るのもいいね」


二人でもそもそとクレープに夢中になっていると、それを目敏く見つけたディランが自分も食べたいと騒ぎ、ロココも便乗。結局みんなで思い思いのクレープを食べて、雷門中に戻った。

校門を潜った途端、何かが飛び出してきて一之瀬くんが吹っ飛ぶ。


「あっ、ダーリン〜!おかえりなさ〜い!」
「うわぁ!?リ、リカ?」
「あたしたちもいるよ」
「塔子、木暮くんも。どうしているの」


弾丸のように一之瀬くんにタックルをかましたリカ。その後ろから塔子と木暮くんが。
いるはずのない人物たちに思わず疑問の声を上げると、春奈ちゃんが携帯を片手に出てきた。


「わたしが呼んだんです。せっかく世界のみなさんが来たんですから、イナズマジャパンのメンバーもと思って。吹雪さん綱海さん土方さん立向居くんの遠方組は、明日の朝到着するそうです。不動さん佐久間さんは部室の方にいますよ」


春奈ちゃんの言うように、帝国組を含めたみんなが続々と集まってきた。
それを見た春奈ちゃんは思い出したように持っていた携帯を開き、ぽちぽちと操作をする。


「そうそう、お兄ちゃんたちに吹雪さんから伝言があるんですよ。ええと『僕が行くまでごんべちゃんを頼んだよ』だそうです」
「わたしを頼む?ロココたちじゃなくて?」
「任せろと伝えておいてくれ、春奈」
「ああ。名無しのことは心配するなとな」


何故わたしを鬼道くんたちに頼むのか解らず首を傾げるが、鬼道くんも豪炎寺くんも心得ていると言わんばかりに大仰に頷いている。
わたしよりもロココたちをお願いしたいのだけれど・・・。


「とにかくごんべ、疲れただろう。少し部室で休んでいたらどうだ?雷門も」
「そうさせてもらおうかしら。ごんべさん、行きましょう」
「でも、大丈夫なの一郎太。こんなこと言うのも何だけれど・・・結構、大変よ」


一郎太の気遣いは有り難いが、この濃い面子を残して休息を取らせてもらうには引け目がある。促す夏未に待ったをかけて言えば、一郎太はふっと笑みを浮かべた。


「大丈夫だ。オレたちに任せて休んでくれ。・・・日本の流儀を、きっちり叩き込んでおくからな」


笑顔に不釣り合いな不穏な言葉を残し、一郎太は鬼道くんたちとともにロココたちのところへ向かう。


「・・・行きましょう、ごんべさん」
「・・・その方がいいみたい」


喧噪に背を向け夏未とともに部室に向かいながら、これからのことを思い自然とため息が出た。

彼らの滞在は、まだまだ続く。



___
はるかさんリク「FFI出場選手たちが日本に来る」でした。・・・序章です。この後他の方のリクに続きます。
せっかく世界組との絡みが好きだと言ってくださったのに、絡み薄くて申し訳ありません!そしてやはり長くなってしまいました・・・。楽しくてつい。
企画参加ありがとうございました!


2011.12.01
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