一周年記念企画 | ナノ
いい女の特権

卒業試合の後、体育館を解放してもらいそこで卒業パーティーを行った。
思う存分食べて喋って盛り上がり、気がつけばいい時間になっていたため女子は片づけ、男子は布団運びをすることになった。
イナズマジャパン強化合宿の時に建て替えた宿舎はまだあるが、どうせならみんなで雑魚寝をしようということでこの体育館に布団を運ぶのだ。


「はいごんべ、これも追加ね!」


塔子が重ねて持ってきた大皿を流しに入れてスポンジを滑らせる。人数が多いため大皿で出したので、枚数は少ないが洗うのが大変だ。


「でも、こういうの久しぶりだから楽しいわね」
「そうですよね〜。ここ最近は合宿もありませんでしたし」


隣りで取り皿を洗う秋に、洗い終わったお皿を布巾で拭いていた春奈ちゃんも同意する。


「でもみんな楽しそうだったわね。・・・何故か不動くんが集中攻撃受けてたけれど」


春奈ちゃんの隣りで同じく皿拭きに奮闘する夏未が思い出したように付き足せば、みんなが苦笑を溢した。


「向こう片付け終わったでぇ。さっき塔子が持ってきたのんで最後や」


塗れた布巾を片手にリカがキッチンに入ってきた。リカは実家がお好み焼き屋でその手伝いをしているせいで、その見た目とは裏腹に片付けの手際はかなりいい。テーブルを拭いたそれを受け取り濯ぐ。
全てのお皿を洗い終わり、最後の一つも今夏未が拭き終えた。

雷門中の体育館は、各部が合宿施設として使うこともあるため炊事場まで完備だ。さすが地下に謎の施設がある学校。計七名が入っても十分な広さがある。


「みんなお疲れさま。はい、お茶でも飲んでね」


冬花ちゃんがカウンターに人数分のグラスを並べ、冷蔵庫から取り出したペットボトルからお茶を注いでくれる。
口々にお礼を言ってそのグラスを手に取り一口。

わたしもシンクを背に、グラスを煽ったその時。


「ところでごんべさん、誰かに告白された?」
「ふぐっ!?」


謀ったようなタイミングでの冬花ちゃんの言葉に、吹き出すのは堪えたもののそのせいで気管にお茶が流れてしまった。


「コホッ、んん、な、なに言って・・・」
「そやそや、ウチもそれ聞きたかったんやって!卒業式といえば告白は鉄板やろ!」
「リカまで・・・。そんなのされてないから」


いや、リカなら間違いなく食いついてくるネタだとは思っていたけれど、まさか冬花ちゃんに言われるとは思ってもみなかった。


口の端から垂れかけたお茶を人差し指の背で拭い、布巾で拭う。
するとええ〜と春奈ちゃんが声を上げた。


「ごんべ先輩、お兄ちゃんからボタン貰ってたじゃないですか〜!」
「春奈ちゃんっ」
「何やて!?第二ボタンか!」


春奈ちゃんの暴露に非難の声を上げるが、目を爛々と光らせたリカが眼前に迫ってきたためそれ以上は詰め寄れなかった。

確かに鬼道くんから制服のボタンを渡されたが、第二かどうかは解らない。鬼道くん本人も思わせぶりなことだけ言って去っていってしまったし、それから改めて聞くような真似もしていない。
そもそもこの卒業式に第二ボタンを貰うという風習には、三つの説があったはずだ。心臓に一番近いからハートを掴むという意味、という説。上から自分・一番大切な人・友人・家族・謎・・・とそれぞれ意志を持っていると言われていて一番大切な人から貰いたいという説。元々学ランの始まりは軍服で大切な人に形見として渡すのに、第二だと取っても解りにくく敬礼で隠せるためという説。

そもそも雷門中は大振りな三つのボタン。心臓に近いのはむしろ第一な気がするし、二つ目の説は第五まである前提・・・。


「そんなどうでもええ雑学はいらん!必要なんは愛!そして恋や!!」


言い訳がましくつらつら話していると、頭を掻き毟ったリカがカウンターに拳を打ちつけた。


「ウチは知ってんで、ごんべ!あんた毎日毎晩吹雪とメールやら電話やらしとるんやろ!」


拳を作ったのと逆の手で、ビシッとわたしを指さすリカ。
リカの言ったことは確かに事実だが、どうしてそれをリカが知っているのか。


「そういえばごんべちゃん、今日豪炎寺くんと良い感じだったよね。遠目に見てただけだけど、一瞬告白でもしてるのかなって思ったもの」
「ごんべさん、風丸くんに告白みたいなこと言われてたよね」
「いやーーーん!ほんまかそれ!?」

思い出したように言う秋に続き、そもそもの発端となった冬花ちゃんが無邪気な笑顔で再び爆弾を落とす。
リカはもう大興奮である。

リカ、秋、冬花ちゃんに春奈ちゃんの四人が当事者そっちのけできゃいきゃい盛り上がるのを見ていると、リカの勢いに押されていた塔子がそろりと近づいてきた。


「ごんべ、目が虚ろだけど大丈夫か・・・?」
「大丈夫じゃないって言ったら、塔子助けてくれる?」
「・・・・・・。ごめん、ごんべ」


心底申し訳なさそうに謝る塔子に、意地悪なことを言ってしまったと反省する。けれど今回ばかりは許して欲しい。

きゃっきゃと人の恋バナを楽しんでいた四人だったが、段々ヒートアップしてきたようだ。
声が大きくなっていくにつれ、その内容に頭が痛む。

そしてついに、矛先がこちらに向いた。



「ほんで、ごんべ。誰にするんや!?」
「お兄ちゃんですよね!二人ともお似合いだと思います!」
「わたしは風丸くんだと思うな。だってずっとごんべちゃんを見てきたんだもの」
「いやいや時間なんか関係あらへん。やっぱ吹雪やろ」
「わたしは・・・豪炎寺くん、かな。ごんべさんのこと、いつも優しい目で見てるから」
「不動は?」
「「「「それはない」」」」


それぞれ名前を挙げる四人に、ふと塔子が口を挟めば即座に首を振られた。あまりにきっぱりと否定するものだから、塔子が「不動・・・」と同情するような目をしていた。


「で、どうなんごんべ!」


どう、と言われても・・・。



「困る・・・」


本音を言ってしまえば、現在進行形で困っている。
いくら焦らないで待っている、と言われても、この状態がいいとは思わない。好意を向けられているのを知りつつ、それに答えるでもなく普段通りに過ごすなんて、どちらにも酷なことだ。


「一郎太はそのままでいいって言ってくれたけど、そんなの狡いじゃない、わたし」


訥々と溢した本音に、それまで盛り上がっていた周囲に沈黙が走る。気まずげに身じろぐ彼女たちの中で、ただ一人リカだけが呆れたと言わんばかりに両手を肩の高さで上に向け、大げさに首を振った。


「何が狡いん?男がええっちゅーとるんや。あんたはそれに甘えとればええんや」
「それじゃただの悪女じゃない」
「ちゃうちゃう、ええ女は男を待たせるもんや。好きになったんはあいつら。待つって決めたんもあいつら。ほんならあんたはゆっくり考えればええ。それから振るなり何なりすればええ。・・・今すぐ答えだしたら、あんた全員断るやろ?」


甘えろというリカに思わず反論すると、すかさずリカが否定を返した。
正直、驚いた。まさかリカがこんなことを言うなんて思っても見なかったし、何よりわたしがどうするかまで解っていただなんて。


「前世での恋人と、突然別れて。色んなもんを受け入れたんもそう昔やない。そんなあんたがそうそう簡単に恋なん出来るわけない」
「リカ・・・」
「そんなんはな、あいつらも重々承知なんや。そやから今すぐは望んどらん。ごんべに必要なんは、時間や。あいつらの気持ちと、自分の気持ちと向き合って、ゆっくり考えて、それから答えを出せばええんや」


つい数分前までわたしに誰を選ぶのかと迫っていたリカは一体どこに行ったのか。
まるで姉が妹に諭すかのような言葉は、すとんとわたしの中に収まった。


「解ったか?」
「・・・うん。・・・ありがとう、リカ」
「よっし!ま、何よりそう簡単に決まったらおもろないしな!ほんならそろそろ男共も戻ってくる頃やし、手伝いに行こか」



にひっと笑って身を翻したリカ。それは確かに、大阪ギャルズCCCでキャプテンを務めている紛れもないリーダーの後ろ姿だった。

その華奢な背中を眺めていると、肩を叩かれた。


「わたしたちも行きましょうか、ごんべさん」


釣り目がちな目を和ませた夏未に頷いて、ざわざわと賑やかな声がする方へ足を向けた。

ゆっくりゆっくり、でも着実に前へ。
そうやって進んでいくことが、彼らへの誠意なのかもしれない。




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桜花さんリク「みんなを男性と意識してからのガールズトーク」でした。何故・・・シリアスに・・・。明るい話をご期待されていましたらすみませんーっ!でもうちの幼なじみ主なら多分こういうことで悩むだろうな、と思いまして・・・。書きたいネタの一つだったので、リクして頂けて嬉しかったです。
企画参加ありがとうございました!


2011.11.27
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