ミニマムパニック! |
部室の扉を開けた途端、そこに広がる空間が理解出来なかった。 「これは一体どういう・・・?」 今日は委員会の集まりが放課後にあった為部活には遅れていくと連絡はしてあった。それなのに委員会開始直前に半田から着信があり、とにもかくにも部室に来てくれ!と一方的に用件だけを告げて切られた。 何があったかは一切解らなかったけれどまた面倒事が起きたことだけは理解出来たので、同じ委員会の子に後のことを頼み部室へとやって来てみれば。 何故かおんぼろ部室に似つかわしくない幼い子供二人と、それを取り囲み困惑している部員たちの姿があった。 「やっと来たか名無し!こっちだこっち!」 わたしにいち早く気がついたのは呼び出した張本人で、助かったと顔に書いてある。半田はわたしを輪の中に押し込み、一番前へと押し出す。そこでようやく子供たちの顔をしっかり見れたわけだが・・・。 どんぐりのような目をくりくりさせた濃い茶髪の男の子と、その後ろに身を縮こませ隠れるようにしてこちらを片目で覗く女の子・・・違う、この子は男の子だ。 わたしの記憶が確かで、そしてわたしの嫌な予想が確かなら! 「まさか・・・、守と一郎太だなんて言わないよ、ね。みんな・・・?」 「残念だが、その通りだ」 「お願いだから嘘だと言って鬼道くん・・・っ」 わっと顔を両手で覆う。なんなのその超次元な展開は! 内心で有り得ないと連発していると、スカートの裾をくいくいと引かれる感触に我に帰る。 顔を覆っていた手を外せば、そこにはわたしのスカートを手を伸ばして引っ張る守(仮)と先程と変わらずその後ろにぴたっとくっついた一郎太(仮)がいて、わたしの顔をじぃっと食い入るように見ている。そして。 「ごんべだ!」 ぱっと表情を変えた守(仮)がわたしのお腹に正面からダイブしてきた。 「ごんべちゃん・・・っ!」 続いて一郎太(仮)も横からひしっとしがみついてくる。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 部員たちの視線を感じながら、わたしは否定を諦めた。どうやら本当にこの子たちは、我が幼なじみたちらしい。 「なんかきがついたらここにいたんだ!」 「しらないひと、いっぱいでっ、ごんべちゃ、いないし・・・こ、こわかったよう・・・」 どうやら身体だけでなく精神まで幼児化しているらしい。 ベンチに腰掛けわたしの右隣りに座った守はどーん!と背後に効果音が付きそうだし、左には相変わらずわたしにくっついてビスビス鼻を鳴らす一郎太。 「こうして見ると、円堂は変わらないけど風丸は本当可愛いね。前にごんべが言ってた通りだ」 「でしょ。あのいじめっこの初恋は絶対一郎太だと思う」 「いやー、これは間違いないね」 「おいおい、一之瀬も名無しもやめとけよ。風丸が元に戻ったときにこのこと覚えてたら怒るぞ」 一之瀬くんが興味津々に一郎太を眺めると、この当時絶賛人見知り中だった一郎太がいやいやとわたしの制服を握りしめ脇腹に顔を押しつけてくる。 その様子を哀れに思ったのか土門くんが間に入り、一之瀬くんを引き離した。 知った人間にあって安心したのか、守も一郎太もごろごろとわたしに擦り寄る。 「なぁなぁ、ごんべはなんでこんなでっかいんだ?」 「あー・・・、これなんて説明したらいいの。そもそもどうしてこんなことに・・・?」 膝に乗ってきた守の質問に困り、今更な質問をすれば返ってきた答えは、皆一様に「解らない」だった。 豪炎寺くん曰く、本日部室へ一番乗りは一郎太だったらしい。部室に入っていく一郎太、そこにHRが終わりすぐさま走ってきた守が続いた。それを追って部室へ入ろうとした途端、悲鳴が聞こえたのだと言う。 驚いた豪炎寺くんと、同じく続々と集まっていた部員、マネージャーたちはすぐさま部室の扉を開けた。 「そこにはもうすでに円堂も風丸もいなかった。代わりに・・・」 言葉を切った豪炎寺くんの視線と共に、全員の視線がわたしの両隣りに。 結局、原因は解らないということだ。原因が解らなければ戻り方も解らない。 突然視線を向けられきょとんとした二人は、気にしないことにしたらしい。 「ごんべちゃん、ちゅうして」 「あー、オレも!オレも!」 完全に甘えたモードに入ったらしい二人は競いあうように膝に乗り上げ可愛いことを言う。そうそう、この頃はほっぺにちゅうが流行っていた。叔母のせいで。 「はいはい。一郎太にちゅー、守にちゅー」 きゃあきゃあはしゃぐ子供たちに思わずほんわかな気持ちになるが、鬼道くんの言葉に現実に戻された。 「ゴホン!名無し、仲がいいのは結構だが、これからどうするんだ」 「原因が解らない以上、どうしようもないんじゃないかな。ひとまず今夜はうちに泊まらせるよ。叔母も出張でいないし」 このままの姿でそれぞれの自宅に帰すわけにはいかないだろう。 そう思い提案したものの、鬼道くんから待ったが掛かった。 「待て名無し、もし途中で戻ったらどうする。幼なじみとはいえ女子一人のところに置くわけにはいかないだろう」 「でも守はまだしも一郎太は多分わたし以外のところは難しいと思うけど」 「しかしだな、風呂などはどうする気だ」 「それこそ今更だって。この年の頃ならよく一緒に入ってたし」 よく泥だらけで帰ってきては三人纏めてお風呂場に放り込まれていたはずだ。懐かしい。 そういえばアルバムにその写真があった気がする、なんて考えていたら、突然がっと肩を掴まれた。 「名無し、やはり駄目だ。円堂も風丸もオレたちの誰かが預かろう」 「ご、豪炎寺くん・・・なんでそんな必死なの・・・」 「いや、豪炎寺の言う通りだ。さぁ円堂、風丸。こっちへ来るんだ」 切羽詰まったように詰め寄る豪炎寺くんは異様で、思わず身を引いてしまった。 それなのに鬼道くんまでもがそれに同意を示し、それぞれ守と一郎太を引き離そうと手を掛ける。 しかし、一郎太は勿論守も抵抗を示した。 「やだっ!オレはごんべといるんだ!」 「やだやだごんべちゃ、やだぁああ!たすけてぇ!」 「円堂っ、我儘を言うんじゃない!」 「風丸も泣くな。名無しが困るだろう」 鬼道くんも豪炎寺くんも必死だが、子供二人はもっと必死だった。 「いーやーだぁあああ!オレ、ごんべといるんだーっ!」 「う、あ、うぁああああん!!ごんべちゃぁあん!」 ついには泣き出してしまった一郎太に、守も真っ赤な顔で鬼道くんの手から暴れて逃れる。 もう完全に嫌がる幼児を誘拐しようとしている様である。 「お、おい鬼道も豪炎寺もいい加減に・・・」 さすがにこうも泣き喚かれては可哀想だ。思わず染岡が仲裁に入ろうとするが、それよりも早く立ち上がって息を吸い込んだ。 「鬼道くんも豪炎寺くんも、いい加減にしなさい!」 わたしの怒声に二人の動きが止まり、その隙に守と一郎太がわたしに飛びつく。 それを抱き止め、抱え込むようにして子供たちを包み鬼道くんと豪炎寺くんを叱る。 「一番不安なのはこの子たちなんだから、そんな乱暴にして怖がらせるだけでしょう!二人はわたしの家で預かります。異論は受け付けません。いいわね!?」 「おおお、珍しく名無しが怒った・・・」 半田の呟きの通り、自分で言うのもなんだがわたしが本気で怒鳴ることはまずない。 特に怒られなれていないだろう鬼道くんと豪炎寺くんには衝撃的だったようで、叱られた猫のように固まってしまっている。 「じゃあ先に帰るから。秋、悪いんだけど後で二人の鞄頼める?染岡と半田使っていいから」 「あ、うん。解った。車に気を付けてね」 「ありがとう。さ、行こうか」 少し可哀想な気もするが、今のうちだ。これ以上ここにいれば本格的に泣き出して手が付けられなくなる。子供の癇癪を舐めてはいけない。 結局この後、家に付くと泣いて逃げ回り疲れた二人は寝てしまい、起きたら元に戻っていた。ちなみに小さくなっていた間の記憶はなく、一之瀬くんが胸を撫で降ろしていたのと、しばらくちらちらと伺うようにわたしを見てくる鬼道くんと豪炎寺くんに首を傾げていた。 ___ 茗さん「小さくなった誰かを甘やかすヒロインと妬く周り」と東雲さん「幼児化した円堂&風丸が甘えまくり嫉妬される」でした。 嫉妬が薄い気もしますが、いかがでしたでしょうか。書くのは非常に楽しかったです。 企画参加ありがとうございました! 2011.11.23 Back |