一周年記念企画 | ナノ
海と空とにぃにぃと

綱海の誘いでやってきた沖縄。
FFI後爆発的に増えた部員たちを全員連れてくることは出来なかった為、新入部員は雷門中に残し、その指導は響木監督に頼んである。

以前にイナズマキャラバンが沖縄にきたときわたしは離脱中だったので、これが初めての沖縄だ。話に聞いていた以上に個性的な大海原中の面々には驚かされた。
そんな大海原中との練習試合の翌日。

雷門中と大海原中に加え、昨日も顔を出してくれた土方くんも一緒に、一行は海水浴に来ていた。


「ごんべさん・・・。メイド服は嫌がったのに、水着は恥ずかしくないの・・・?」


綱海から事前に言われていた為、水着はしっかり持参している。着替えを済まし、恥ずかしがる夏未の手を引いてみんなの元に向かう。


「だって海で水着着るのは普通でしょ。サッカーの試合でメイド服とか、ただのコスプレじゃない。恥ずかしい」
「それはシチュエーションさえ合えばメイド服でも着るということかしら」
「シチェーションが合えばね」


砂浜へ出れば、先に着替えを済ましていた男の子たちはすでに思い思いに遊び始めていた。


「ごんべ。おまえ、パーカーくらい羽織ったらどうだ」


よりにもよってビキニとか・・・ともごもごと口の中で喋る一郎太の頬は赤い。


「ワンピースタイプはちょっと可愛すぎる気がして。変?」
「い、いや、変とかじゃなくて・・・っ。あー、その。目のやり場に、困る」


女の子に免疫のない純情な一郎太には、幼なじみの水着姿すら直視出来ないらしい。
まあ、一郎太が水着の女の子を真顔でじっと見ていたらそれはそれで怖いから、これでいいのかもしれない。


「お。ごんべ来たのか!一緒に泳ごうぜ」


バンダナを外し髪を下ろした守に誘われるがまま海に入る。
沖縄の海は水が澄んでいて、青い。

水に身体を慣らすためゆっくりと海に入り、胸元まで浸かってから泳ぎ始める。
先に泳ぎ始めていた守に難なく追いつき、そのまましばらくの間透明度の高い海を堪能した。


「いい泳ぎっぷりだな」


久しぶりに泳いだせいで少し疲れた。仰向けになり顔を水面から出して波に身を任せていると、マントは外したもののゴーグルは健在な鬼道くんに覗き込まれた。


「呼吸器が弱かったから、前まで水泳を習ってたの」
「ああ、それでか。水泳は心肺機能を鍛えるのに最適だからな」


立ち泳ぎに切り替えると、鬼道くんに手を取られて肩に誘導される。どうやら肩に掴まらせてくれるらしい。鬼道くんの気遣いに素直に甘えさせてもらい、そのままでしばらく他愛のない話をした。

鬼道くんと別れ、砂浜に戻る。
タオルで髪の水気を大雑把に拭い肩にかけ、クーラーボックスを開けてドリンクを取り出すと、背後から声が掛かった。


「名無し、すまないがオレにも一本くれないか」


濡れた髪を掻き上げる豪炎寺くんに、ペットボトルの蓋を緩めて渡す。


「ありがとう。名無しも休憩か?」
「ちょっと泳ぎ着かれちゃって。豪炎寺くんも休憩?」
「ああ。染岡たちと遠泳をしてきたんだ」


シートに腰を下ろし、水分補給をしながら少し話す。
沖縄は豪炎寺くんにとって良くも悪くも印象的な場所だろう。エイリア学園との戦いで妹を人質に取られ、身を隠すためにやってきた沖縄。潜伏している間は辛かっただろう。けれど、問題が解決してチームに戻ってきたのもこの沖縄だった。


「そうだな。だが、こうして純粋に試合を楽しんで、みんなで遊びに来ることが出来て良かったと思う」


そう言った豪炎寺くんの目には一切の陰りも見えなかったから安心した。


それから春奈ちゃんたちと砂のお城を作ったり、大海原中との混合チームでビーチバレーをしていたら。あっという間に夕方になっていた。


「おっ、いたいた。ごんべー」
「綱海」
「よっと。どうだ、楽しかったか?」


みんなのいる砂浜から少しだけ離れた岩場でぼんやりと海を眺めていると、何やらわたしを探していたらしい綱海がひょっこり顔を出した。
軽い動きで岩に上り、わたしの隣に腰を下ろした綱海。その問いかけに頷く。


「そっかよかった!沖縄ってスゲーいいところだろ。この海をおまえに見せてやりたかったんだ」


綱海は沖縄が、この海が大好きなのだろう。その気持ちも少しは解る。よく綱海が「海の広さに比べれば、ちっぽけなことだぜ!」と言うが、この海を眺めていると自分の悩みも、自分自身もとても小さいものに感じる。

この海と、沖縄独特の空気が、綱海を懐の大きい人にしたのだろう。


「オレはさ、大海原の連中も、円堂たちもみんな家族だと思ってんだ」


海を眺めながら潮風を感じていると、ふいに綱海が口を開く。
いつもとは違う落ち着いた声色に、少し動揺してその横顔を覗き見る。

綱海は海を見たまま、静かに続けた。


「年功序列とかはどうでもいいけどよ。それでもやっぱり、オレは年上だろ。だから、いざって時は守ってやらなきゃなんねぇって思ってる」


時々忘れそうになるけれど、綱海は中学三年生。わたしたちよりも一つ年上だ。


「何が言いたいかっつーと、おまえもオレの妹ってことだ!」


わたしに向き直り綱海は笑う。もしかして今回の沖縄への誘いはこの為だったのかもしれない。

大切に思われている。
ライオコット島から帰ってきて、そう感じる事が多々あった。同情だとか、気を使われるのとは少し違う感覚が、くすぐったくて嬉しかった。


「綱海、あり・・・」
「だからさ、オレのことにぃにぃって呼んでみ?」
「・・・・・・はい?」
「オレは兄貴なんだから変じゃねぇだろ。ほら、
にぃにぃー」
「いやいやいやいやそれはさすがにちょっと」


さすがに恥ずかしいんですが。

やんわりと拒否するが綱海は諦めてくれなかった。結局はわたしが根負けし。


「・・・にぃにぃ」


普段口にすることがない、沖縄で『兄』を指す言葉。
海水の塩分で所々白くなった岩の窪みに視線を落とし、小さく呟いた。


「ごんべ、顔真っ赤だぜ」
「っ、綱海が言わせたんでしょ!」
「ははははは!怒るなって!」


ああもう、だから言いたくなかったのに!

火照った顔を隠すように俯けば、頭の上に大きな手が乗った。


「何かあったらいつでも頼ってこいよ。オレはごんべのにぃにぃだからな!」


顔を上げれば、夕陽に染まる空と海をバックに、綱海がにかっと笑っていた。


___
嵐夏さん「綱海とほのぼの甘」+匿名さん「みんなで沖縄へ海水浴」でした。
大変お待たせしました。ほのぼのになってるといいのですが・・・。
企画へのご参加ありがとうございました!


2012.07.24
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