ああ愛しの男前たち |
その日は突然やってきた。何の前触れも報せもなく、それは訪れた。 放課後、部活終了後に欠かさず行っている自主練習を終えたおとこまえは、武道館の戸締まりを確認してから面と竹刀を担いで帰路についた。 陽も殆ど地平線に沈みかけているのを目を細めて見ながら校門を潜る、と。 「うわぁっ」 「え・・・、っ」 夕陽の眩しさにばかり気を取られていたおとこまえは、飛び出してきた影に気づかずぶつかってしまった。 荷物を持っていたため、とっさに片手で受け身をとる。 「あてててて・・・。ごめんっ、前見てなかった!大丈夫か?」 おとこまえと違い受け身をとらなかった相手は後ろに尻餅をつくが、すぐに起き上がるとおとこまえの心配を始める。 これが、男前苗字おとこまえと円堂守のファーストコンタクトであった。 *** 乱暴なノックの後、入室の許可を得ずに生徒会の扉が派手な音を立てて開けられた。 無作法に渋面を上げた夏未だったが、息を切らし珠の汗を浮かべた生徒会役員の言葉に、手にしていた決算書類を握りつぶした。 「大変です会長、副会長と円堂守が、せっ接触しています!」 「なんですって!?」 「現在副会長の教室にて談笑中、被害者が続出しているとの報告ですっ」 「そ、そんな・・・。あの二人がついに出会ってしまっただなんて・・・!」 決して大袈裟ではない。 男前苗字おとこまえと円堂守。それぞれがとんでもないカリスマ性の持ち主であり、本人たちの預かり知らぬところで信者を量産している、雷門中が世界に誇る男前二人。 いや、むしろ今まで出会わずにいたことが奇跡だ。 マンモス校とはいえ同学年で、双方共に知名度は高い。共通の友人もいる。当然の出会いだった。 「悠長に話している暇はないわ。生徒会メンバーを全員現場へ急行させてちょうだい。わたしも向かうわ!」 「了解です会長!」 指示を飛ばし、自身も生徒会室を飛び出す。 そして向かった先に広がる光景に、目眩がした。 「へぇ。円堂くんは本当にサッカーが好きなんだね」 「ああ!おまえもやってみないか、サッカー。楽しいぜ!」 「それは嬉しいお誘いだ。教えてくれるかい?」 「もっちろん!あ、オレのことは呼び捨てでいいぜ。オレもおとこまえって呼ぶからさ」 「じゃあお言葉に甘えて。楽しみにしてるよ、守」 おとこまえの机に両手をついて熱心にサッカーの魅力を語る円堂に、相槌を打つおとこまえ。 キラキラと目映い光の粒子が二人を取り巻き、何故か二人を中心に吹く爽やかな風に舞って見えるのは、夏未の幻覚だろうか。 これ以上直視していたら危険な気がして目を逸らせば、次に目に入ってきたのは死々累々。 「あああああああ・・・っ、おとこまえちゃんと円堂くんのツーショット・・・はあああああん」 今まさに夏未の目の前で、先日死闘を繰り広げたヒロトの腰が砕けた。床に倒れ伏したヒロトは、鼻血を流しながらも至極幸せそうな顔をしていた。 「あんな眩しい生き物がいるだなんて・・・がふっ」 「へへ。あんなもん最後に拝めるなんて、いい人生だったぜ・・・」 「男前苗字さんに円堂くん・・・!と、とろけるぅ〜っ」 男女問わずばたばたと倒れていく。しかし皆一様に「いいもん見た・・・」と恍惚の表情を浮かべていた。 「写真に、写真に収めるまでは倒れるもんですか・・・!ああ、素敵です男前苗字先輩、キャプテン・・・っ」 ・・・一部、凄まじい執念を持ってして持ちこたえている者もいるが。 「会長!みんなを連れてきま・・・うっ!?」 「こ、これは・・・!」 「いけないっ、貴方たち目を閉じなさい!見てはいけないわ!」 後を追ってきた生徒会メンバーにとっさに叫ぶが、時既に遅く。前にいた数人は間に合わず、目を覆い膝をついた。 「目が、目があああああっ」 「たった一瞬なのに、脳裏に焼き付いて・・・くそっ。会長、すみません・・・!」 生徒会の役員は、おとこまえが副会長であることをふまえ、夏未自らが厳選した免疫保持者で固められている。溺愛する恋人がいたり、恋愛に疎かったり、理性の固まりだったりと様々だが、いずれも成績も優秀な猛者ばかり。 そんな役員たちですら膝をついてしまうこの状況・・・。早急になんとかしなければ、学校中の人間が倒れることになるだろう。 (生徒会長であるわたしが何とかしなくてはいけないわ。生徒を守るのは、わたしの仕事だもの!) 「おとこまえ、円堂くん!貴女たちもう少し周りをーーー、きゃあっ」 己を鼓舞し屍たちの間をすり抜け近づく夏未。だがあと数歩というところで、足の裏に妙な感覚を覚えた。 二人から一番近いところに倒れていた最初の犠牲者、アフロディ。 流れた鼻血で眼福・・・!とダイイングメッセージ(?)を残していたアフロディの長い金髪を踏みつけてしまったのだ。 足を取られ前のめりにバランスを崩した夏未は、来るだろう衝撃に備えて身を縮ませながら強く目を瞑った。 だが、一向に衝撃は来ない。それどころか夏未を支えるかのように体に回った暖かい感覚。 恐る恐る目を開け顔を上げれば・・・。 「っと、大丈夫か夏未」 「怪我はない?」 焦点が合わないほどの至近距離に、二人の顔のどアップがあるではないか。 「あ、ああああ、わわわ、わたし・・・」 夏未はおとこまえとも円堂とも深い関わりを持ち、かなりの耐性を持っている。そして人並みはずれた自制心を有してもいた。 だがこの二人、男前プラス男前の単純な足し算ではなかったらしい。 二乗どころでは済まされない破壊力に、夏未の耳の奥でパーンと破裂音が聞こえた。 「どうしたんだよ夏未!おい、夏未!」 「夏未、しっかりするんだ!」 薄れゆく意識の中、夏未は来年のクラス編成ではこの二人の組を端と端に離れるようにしようと心に決めたのであった。 ___ 無記名さんと葉樹さんリク「男前主と円堂で二人揃って男前」でした。恐らくこの後は我らが染岡さんが頑張ったのではないかと思われます。 企画へのご参加ありがとうございました! 2012.05.21 Back |