一周年記念企画 | ナノ
歪み愛

今日のように日差しが強い日は、外周から帰る頃には汗だくになってしまう。
顎先から落ちる汗をユニフォームの裾で雑に拭いながら、オレを周囲を見渡した。

お目当ての姿を見つけ、脇目も振らず飛びつく。


「ごんべー、あっちぃ〜」


背後からごんべの首に腕を回すようにしてのし掛かり、ぐでーっと情けない声を出す。ごんべはたたらを踏んだものの何とか踏ん張り持ちこたえると、溜息を一つついた。


「もう守ってば。暑いのにくっついたら逆効果でしょ」
「ごんべひんやりしてて気持ちいいぜ?」
「外走ってきた守たちに比べれば、そりゃあ少しはね」


文句を言うごんべだが、嫌がっていないことは解っていたからオレは気にせず体重を預ける。

ごんべがオレの甘えを拒んだことは覚えている限りでは一度もない。わがままに関しては窘めたりするが、基本的にごんべは甘いと思う。


「円堂、おまえはまたそんなことして・・・。ごんべの邪魔になるだろ」
「だってマジで気持ちいいんだぜ。風丸もやってみろよ!」


オレの後を追ってきた風丸が注意してくるが、みんなが無邪気だという笑顔を浮かべて提案してみる。
ま、答えは解ってるけどな。


「なっ、何言ってるんだ!やるはずないだろっ」


ほらな。だからおまえは駄目なんだよ風丸。

小さい頃はオレ以上に甘ったれで、何処に行くにも何をするにもごんべにくっついて離れなかった風丸。それがある時期を境に変わった。端から見ていたオレには、風丸がごんべを守れるように、甘えないようにと気張っていたことが解ったが、それは間違いだ。

ごんべは、甘えられることが好きなのだ。

詳しくは知らないけれど多分家庭環境が影響しているのだろう、とにかくごんべは人を甘やかすことが好きだ。
特別オレを甘やかしているわけじゃない。ごんべは多分、誰だってでろでろに甘やかすだろう。


そうして他者を甘やかし、甘えられることで、自身の存在意義を見出している。


「なーごんべ。オレ邪魔か?」
「邪魔ってほどじゃないけど、汗くらいはちゃんと拭かないと風邪引くってば」


知ってるか風丸。おまえがごんべの手を離した時、ごんべが寂しがっていたことを。絶対に口には出さなかったけどな。

手を伸ばしてタオルを掴み、それでオレの顔や首周りを拭くごんべ。そんな羨ましそうな目で見るくらいなら、離さなきゃよかったんだ。馬鹿だなー、本当。

風丸の後ろで、「円堂は仕方ないな」なんて苦笑しながら、その実全然笑っていない目でオレを見る鬼道も豪炎寺も、みーんな馬鹿だ。
好きなら直接伝えなきゃ、ごんべには伝わらないんだぜ。その点で言えば吹雪は正解。オレには適わないけどな。


「くぅ〜、腹減ったぁ」
「我慢我慢。今月のお小遣い、もうないんでしょ?」
「うぐっ。だって新しいグローブ欲しくてさ〜」
「それもだけど、守の場合は雷雷軒に行き過ぎ」
「練習の後って腹が減るもんだろ?」
「お小遣いの配分をしっかり考えなさいって言ってるの」


ごんべの背中にべったり張り付いたままうだうだしていたら、本当に腹が空いてきた。
ごんべの言うとおり今月ピンチだし、こういうことに関しては厳しいごんべは奢ってくれたりはしないだろう。
そんなオレの悲しいお財布事情など知らない腹の虫が、空腹を訴えて激しく鳴く。
壁山のへそくりお菓子でも食うかな、と考えていたら、ふいにごんべの頬が目についた。

なだらかな曲線を描く、目元から顎にかけてのライン。
それは柔らかそうで、ごんべの髪から匂うシャンプーの甘い香りのせいもあって、とても旨そうに見えた。うっすらと生えた産毛も相まって大福に見えないこともない。


「うわっ!?」


興味を引かれるままにあむりと噛みつけば、ごんべの体が跳ねた。
お構いなしに数回甘噛みしてみるが、全然甘くない。・・・当然だが。あ、でもこの感触はいいかもな。

ぐにぐにと頬の弾力を歯で楽しんでいると、風丸に首根っこを掴まれ強引に引き剥がされてしまった。


「円堂っ、おまえ何をしているんだ!」

お。風丸真っ赤。


「ごんべのほっぺ旨そうでさ、つい!」
「いくら腹が空いていたといっても、女子にそんなことをするもんじゃないぞ円堂」


違うだろ鬼道。『女子に』じゃなくて、『ごんべに』するのが気に食わないんだろ。あと音無もか、おまえの場合。


「ちょ、豪炎寺くん痛い痛いっ」
「少し我慢しろ。しっかり拭かないとな・・・」


オレの唾液で濡れた頬。ごんべの手から奪ったタオルでごしごし拭う豪炎寺の表情が硬くて何か笑えた。

いくらおまえらが怒ったって、無駄無駄ムーダ。
ごんべはこんなことじゃ本気で怒ったりしない。万が一怒ったとしても、それでオレを嫌いになったりはしない。
ごんべがオレを嫌いになるなんてことは、一生有り得ないんだよ。


オレがごんべの弱さや狡さ、そして何かを抱え込んでいることに何となく気づいているように。
オレがみんなが思うような天然なんかじゃないって、ごんべは多分気づいている。

サッカーは好きだ。
仲間も大切だ。

それは嘘じゃない。
だけど、オレの中にも確かに暗くて汚いものはある。

ごんべはそれを知っていてなお、オレの傍にいるんだ。


オレは甘えることでごんべに依存する。
ごんべは甘えられることでオレに依存する。
相互依存、いい関係だと思うだろ?

その証拠に。


「全くもう・・・。明日はおやつ作ってくるから、今日は我慢しなさい。ね?」


執拗にタオルを押しつける豪炎寺をやんわりと押し退けたごんべは、眉を寄せ口調こそは呆れたような風を装いながらも、その口元には笑みを浮かべていた。

ほら、な?
オレとごんべの間には、鉄なんかと比べものにならない硬くて強い鎖で繋がれている。それを断ち切ることなんて誰にも出来ないし、させない。


「本当か!?さすがオレのごんべ、大好きだぜ!」


ごんべはオレのもの。

歪んでる?いいんだよ、お互い様なんだから。
大好きだぜ、ごんべ。


___
乃意呪さんリク「天然なりすまし腹黒円堂」でした。この円堂さんには誰も勝てない気がします。唯一対抗出来るとしたら真っ白なロココか真っ黒なロココ位しか・・・。
乃意呪さん、企画へのご参加ありがとうございました!


2012.05.15
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