幼なじみは心配性 |
久遠親子により、イナズマジャパンのチームトレーナーに復帰することになった。 よかったなと声をかけてくれるオルフェウスの面々を見送り、気恥ずかしさを覚えながら業務に戻ったわけだが。 「あのね、守も一郎太も。そんなにくっつかれると動きづらいって言うか・・・」 「だめだ。目を離したらまたどこに行くか解ったものじゃないからな」 どうやら完全に信用を失っているらしい。一郎太にすげなく却下されてしまった。 食事の支度をしている今でも、厨房に入り込んでいる。それなりに広い厨房ではあるものの、マネージャー四人と私、そして更に守と一郎太となればさすがに狭い。 「どこにもいかないから、とにかく厨房を出て、ね?」 「本当にどこにも行かないか?」 「行かない。約束するから」 「・・・解った」 包丁や火を扱うのに、ここまで至近距離にいられると危ない。それに夏未が少し苛ついているように見えるので、お暇願う。 夏未はまだ料理が苦手で、食事の支度の時には少し神経質になる。そんな中でうろうろと厨房の中を歩き回られたら気に障るのも仕方ない。 しぶしぶ頷いた守は一郎太と共に厨房を出てくれた。・・・確かに厨房は出てくれたのだが。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 厨房の出入り口に並んで立ち、無言でこちらをじっと見つめる二人。 「ごんべちゃん。今日はいいから、円堂くんたちといてあげて?二人とも心配してたのよ」 青筋を立てた夏未を宥め、苦笑しながら秋が言った。 知らないうちに退院し、行き先も解らない。あんなことがあった矢先のことに、随分心配をかけてしまったというのはわたしにも自覚があった。 秋たちの好意に甘えて厨房を出るなり、守はわたしの右手を。一郎太は左手を。 がっしり握り、隣に張り付いて離れなかった。 守はまだしも一郎太は、普段ならこんなこと恥ずかしがってしないのに。 「病院に行ったらごんべいなくなってて、心配したんだぜ。・・・それに、こんなに離れてたのってあんまりないし」 食事を待つ間席につくが、それでも手は離されなかった。 むしろわたしの右手をぎゅうぎゅう握りながら守が唇を突き出す。 確かに、守とは生まれてすぐからの付き合いで、ほぼ毎日と言って良いほど顔を合わせていた。エイリアとの戦いでわたしがキャラバンを降りて離れた時期もあったけれど、あれは居場所がはっきりしていたからまた違っただろう。 「ん、ごめんね」 心配を掛けてしまったことを素直に謝れば、守はこくんと頷いた。幼い子供がするような仕草に頭を撫でたくなるが、生憎両手とも塞がっている。代わりに繋いだ右手に力を込めた。 照れたような守の笑みに口元も緩む。だが、今度は左手をくいっと引っ張られた。 「オレはそんなんじゃ許さないぜ」 左を見れば、不機嫌そうな一郎太が。 隠れていない右目がじとっと睨みつけてくる。 「大体、いつもごんべは勝手すぎる。どうしてオレたちに何も相談しないんだ」 「ブラジル代表のことなら、わたしの問題だから」 「それだけじゃない。全部だ。前世のことも、両親とのことも、オレも円堂も何も知らなかった。・・・ずっと一緒にいたのに」 「風丸、それはごんべだって言いづらいことだろ」 「円堂は黙っててくれ。オレはごんべに言ってるんだ」 珍しい光景だった。一郎太が守を諫めるのなら解る。なのに今は、不機嫌を隠そうとしない一郎太を守が宥めようとして失敗していた。 「ごんべは前にオレに言ったよな。オレと円堂は、おまえにとっての特別だって。・・・オレにとって、いや。オレたちにとっても、ごんべは特別なんだ」 エイリア学園との決戦を終え、雷門に戻ってきたわたしたちを出迎えたのは変わり果てた一郎太たちだった。 試合を通して正気を取り戻した一郎太に、確かにそう言ったのを覚えている。 「ずっと一緒にいたのに、特別だと思っていたのに、オレたちは何も知らなかったんだ。どんな気持ちになったか、解るか」 「一郎太・・・」 「・・・ごんべがさ、言いづらかったのは解る。でもオレも風丸と同じで、なんで言ってくれなかったんだよって思った」 「頼りにならないかもしれないけどさ。でもやっぱ、言って欲しかったぜ」 ずっと一緒にいたのに、隠し事をされていた。 誰よりも一番知っていると思っていたのに、何も知らなかった。 それは今までの時間を否定されるような気分になるのかもしれない。 「だから、しばらくは離さないからな。オレたちにこんな思いさせたんだ」 それでもわたしが言えなかったのも仕方ないと理解はしているのだろう。重くなった空気を取り払うように、一郎太がそう宣言し、反対側で守も大きく頷いた。 そしてそのまま食事になり、選手たちも集まる。 わたしの両脇にぴったり張り付く二人に、一部は微笑ましげな、一部は複雑そうな視線を寄越しながら席につく。 ただ両隣に座るのなら構わないけれど、距離が異様に近いために肘が当たって食べづらい。 とはいえ、こちらとしても強くは出られない。仕方なしに煮物の人参を口に運んだ。 「んっ」 「ごんべどうかしたのか」 人参を口に含めた途端に顔をしかめると、守が覗き込んでくる。 よく味の入った人参が、ガルシルドに殴られたせいで切れた咥内に滲みたのだ。 すっと一郎太が差し出してくれたお茶で人参を流し込み、舌でそっと傷をなぞる。 鉄の味が舌に広がり眉を潜める。あれから少し時間が経ち、頬の腫れは随分引いたが完治には遠いようだ。 「ほら、細かくしてやるからこれ食べろよ」 「いいよ一郎太、自分でやるから」 「いいから。ほら」 わたしのお皿を引き寄せて細かくしていく一郎太。 その真似をして別の皿を引き寄せる守。 そのくらい自分でするのに全く過保護な。と思いつつ、ついつい口元が緩んでしまうのはどうしようもなかった。 せっせとごんべの世話を焼く円堂と風丸を見ながら、じりじりしている選手たちがいた。 ごんべが戻ってきてくれたことは嬉しい。心配もしていたから、本当は今すぐにでもあの場に混ざりたい。 しかし幼なじみの絆というのはやっかいで強固なものだ。三人揃ってしまえば他者がなかなか踏み入ることが難しい空間をいとも簡単に造ってしまう。 そして何より、中心にいるごんべがとても嬉しそうにしているのだ。 入りたい、でも入れない・・・! そんな少年たちの葛藤は、今しばらく続くこととなる。 ___ ぺぽさんリク「べったりな風丸と円堂にヤキモキするイナズマジャパン」でした。ヤキモキ要素が少ない・・・!す、すみませんでした! 一度データが吹っ飛んで、書き直したら全くの別物になってしまいました。ぺぽさん、企画へのご参加ありがとうございました! 2012.02.06 Back |