一周年記念企画 | ナノ
王子様は野獣

来週末にある他校との親善試合について、剣道部の部顧問と職員室で打ち合わせをしてきた帰り。
教室に戻る途中の階段の踊り場で、うずくまっている男子生徒を発見した。


「きみ、どうしたの。具合でも悪い?」


階段を駆け上がり傍らに膝を付いたおとこまえに、男子生徒が顔を上げる。露わになったのは見知った顔であった。


「吹雪くん、また体調が悪いの?」
「あ・・・おとこまえちゃん・・・」


青い顔で口元を押さえた少年は、おとこまえの同級生である吹雪士郎。どうやら体が弱いらしく、何度かこうして廊下や階段などで体調が悪そうにしているところを見つけ保健室に連れていったことがある。


「保健室に行こうと思ったんだけど・・・」


保健室まで持たなかったようだ。
へにゃんと笑う吹雪におとこまえは肩を貸す。
小柄な吹雪とおとこまえの身長はほぼ同じ。吹雪を気遣い歩幅を合わせながら、ゆっくりと保健室に向かった。


「失礼します」


辿り着いた保健室は、無人だった。
ドアには不在を知らせるプレートが掛かっていて、養護教諭は出張らしい。
ひとまず吹雪をベッドに横たわらせる。


「いつも迷惑かけてごめんねおとこまえちゃん・・・」
「謝ることじゃないよ。体調が悪いときは無理せずに周りに声を掛けるといい。遠慮しないでね」
「うん・・・ありがとう」


吹雪に布団を掛けて、養護教諭が使用するデスクに向かう。置かれた用紙に使用者の名前を書き、棚から体温計を取り出して吹雪に渡す。
測り終えた体温計を受け取れば、熱はないようだった。


「ん・・・でも、体が熱いんだ・・・」
「熱冷ましシートを貼ろうか」
「ううん、ねぇおとこまえちゃん・・・」


伸ばされた白い腕。深く考えずにおとこまえがその手を握った
瞬間、ぐっと手を引かれて視界が回った。


「吹雪くん・・・?」
「熱くて熱くてたまらないんだ。僕の熱を冷ましてくれる・・・?」


何故かベッドに引き倒され、その上には吹雪が覆い被さっていた。
首を傾げるおとこまえの頬に手を当てて、熱に滲んだ瞳でおとこまえを見下ろす吹雪。

間近にある口からはハァハァと荒い呼吸が漏れ、その頬も上気しているし、おとこまえに触れている吹雪の体も熱いのが解る。

体温計には現れなかったが熱があるのは間違いないだろう。そう判断したおとこまえは、吹雪のお願いに真摯に頷いた。


「もちろん。わたしに出来ることならば」
「・・・!むしろおとこまえちゃんにしか出来ないことだよ・・・!」
「わたしは保健委員でもないからそう出来ることもないと思うけれど、大丈夫かな」
「そんなに難しいことじゃないから大丈夫。おとこまえちゃんは僕に全部任せてくれればいいからね」
「吹雪くんに任せる?わたしが看病をするのに?」
「そうだよ。僕の熱を冷ませるのはきみだけだから」


喉にもきているのだろうか掠れた声で囁く吹雪に、おとこまえは彼がそう言うのならばと頷いた。




***




美術の授業中、彫刻刀で指を切ってしまった染岡は保健室に絆創膏を貰いに来ていた。
ドアにぶら下がった不在プレートに、まぁ絆創膏位勝手に持っていってもいいだろう考え、誰もいないはずの保健室にノックも不要と勢いよくドアを滑らせた。


「・・・・・・」
「ああ、竜吾じゃないか。きみが保健室なんて珍しいね、怪我でもしたのかな」
「あ、おう、指切って・・・じゃねえよ!おまえら何やってんだ!?」
「何って、吹雪くんの看病を」
「押し倒されて!?」


ベッドには、組み敷かれたおとこまえとその上に跨る吹雪。


「やだなあ、何するかなんて決まってるじゃない染岡くん。ナニするんだよ」
「吹雪ぃぃぃいい!?」


輝かんばかりの笑顔で答える吹雪に思わず叫ぶ染岡。
そんな爽やかな笑顔で白昼堂々何てことを言い出すのだ!

おとこまえもおとこまえだ。男にベッドに押し倒されて馬乗りになられているのに、何を暢気なことを。一体どんな看病をさせられるか解ったもんじゃない。


「しまったな、いつの間にか授業が始まっていたか。無断欠席になってしまうから、吹雪くんの教室にも立ち寄って話をしてくるよ。竜吾、授業が終わるまで吹雪くんを見ていてくれないか」


上に乗っている吹雪からするりと抜け出したおとこまえは、壁に掛けられた時計に目をやり顔をしかめた。
染岡に声を掛けて、足早に保健室を出ていってしまう。

残されたのは戸惑う染岡と、ふてぶてしく布団の上に座り込んだ吹雪だけ。


「あーあ、もう少しだったのに。染岡くん空気読んでよ」
「待て待て待て、おまえ本気で何しようとしてたんだよ!」
「だからナニだってば。ここまで持ち込むの大変だったんだよ?基山くんと協力しておとこまえちゃんの行動調べて何回か会って警戒心が薄れたところだったのにー」


おとこまえちゃん剣道やってるせいか隙がなくて大変だったんだよ、押し倒すまでいくの。
ぷくーと頬を膨らます吹雪に、染岡は戦慄した。

よく女子たちが吹雪と染岡が並んでいるのを見て、「まるっきり美女と野獣よねー」「やだ、王子様と野獣よぉ」なんて言っているのを聞いたことがあるが、とんでもない。
おまえらの王子様の正体は野獣だぞ・・・!


「最初はおとこまえちゃんに襲ってもらおうとしてたんだけど、なかなか襲ってくれないから、だったら僕が襲えばいいかなって」


えへっと笑う吹雪。

今まで染岡は、おとこまえに夢中になるサッカー部の仲間たちを複数人見てきた。
そのほぼ全てが恋をしているというには異常で、中には犯罪に片足突っ込んでいる奴もいた。
だがその誰もが、男顔負けなおとこまえに愛されたいという受け身だった。
でも、吹雪は違う!


こいつを放っておいたら、おとこまえが危険だ・・・!
その危険度は他の奴らの比ではないぞ!


吹雪も大切な仲間であるが、おとこまえも大切な友人。オレが守らなくては・・・と染岡が決心していると。
吹雪がふと笑顔を消した。


「それにしても、染岡くんって竜吾って呼ばれてるんだねぇ」


ねっとりした言い回しに、染岡の背中を悪寒が走る。


「ずるいよねぇ。僕、なかなか名前で呼んでもらえないのに。ずるいよねぇ」
「ふ、吹雪・・・!?」
「ああ、そういえば染岡くん怪我してるんだっけ。僕が治療してあげるよ。どの消毒液が一番よく効くのかなぁ。色々試してみようか」
「や、やめろ・・・っ来るんじゃねえ・・・!!」




「う、うわあああああああああああああああああ!!」


その日、染岡の悲鳴が授業中で静かな雷門中校舎に響きわたった。



___
しょうさん・無記名さん・樹里さんリクの「吹雪との絡み」でした。ロールキャベツ男子吹雪です。ハニーフェイスで中身は野獣です。アフロディとヒロトの中間な感じでしょうか。とにかく楽しかったです。染岡さんの扱いは愛故です。
企画へのご参加ありがとうございました!


2011.12.23
Back