ロココと一緒! |
部室で大介さんを質問攻めにし始めてから少し経った頃。どたどたと騒がしい足音を立てて守がロココを引っ張って来た。 「ごんべ!ロココの耳掻きしてやってくれよ」 ロココを前に押し出した守。急にどうしたのかと思えば、ミニゲーム後にロココが耳が聴こえにくいと訴えたらしい。土のグラウンドでは砂埃も立つし、それが詰まったのかもしれない。 「解った。ちょっと待ってね」 ロッカーを開けて鞄から耳掻きセットを取り出す。壁際に置かれたベンチの端に腰掛けてロココを手招きした。 これから何をするのか解らずきょとんをしているロココに、わたしの膝を枕に横になるよう指示する。 「僕ミミカキ?って初めてなんだけど、何するの?」 「耳掻きは日本では一般的だけど、海外ではそうではないからね。この棒を耳に入れて、塵や垢を掻きだして掃除するの」 「こんな長い棒を耳に入れるの!?」 ぎょっとしたロココが上半身を起こす。それを宥めるように膝の上に戻す。 確かに経験がなければ怖い行為だろう。 わたしの膝に頭を置いたものの落ち着かないロココに、大介さんが声を掛けた。 「大丈夫じゃロココ。耳掻きは気持ちいいぞぅ」 「ごんべの耳掻きスゲー巧いんだぜ!オレいつも寝ちまうもん」 大介さんに続けられた守の言葉に、ようやくロココの身体から緊張が抜けた。 耳朶を軽く引っ張り中を覗くと、今までしたことがないというだけはあった。これはやりがいがありそうだ。 「守、ティッシュ一枚取って」 「おう!」 まず掻き棒で大きなものを掻きだしていく。時々ピンセットに持ち変え、摘んではティッシュの上へ。 あまり強く掻くと肌が傷ついて薄皮が剥がれてしまうため、あくまで優しく撫でるように。 入り口付近に目立つものが無くなってから、少し奥へ。 その頃にはロココも慣れたようですっかりリラックスして微睡んでいた。 大体綺麗になったので、掻き棒から綿棒に変える。シーブリーズを吹き付けて細かい垢を拭き取る。 くるくると綿棒を回していた時だった。 複数の足音と共に、やや乱暴に部室のドアが開いた。 ロココもわたしも驚いて動いてしまったが、同時に動いたことが功を奏したのか痛みはなかったようだ。 鼓膜に当たらなくて良かったと胸を撫で下ろしてから、こうなった原因に目をやった。 *** 「もっとそっと開けないと、びっくりしたじゃない」 ごんべの言うことは尤もだが、この状況下では申し訳ないが構っていられない。 耳が聴こえにくいと言うロココの手を引っ張って円堂が走り去った後、一体どうしたんだとみんなが首を傾げた。 そんな中、幼なじみで付き合いの長いオレならば円堂の行動の意味を理解しているのでは、と視線が集まった。 その予想通り、オレには円堂が何を思い何処に向かったか解っていた。恐らく間違いではないだろう。 「ごんべの所に行ったんだろ。あいつ耳掻き巧いから」 「耳掻き・・・?」 豪炎寺の眉がぴくりと動き、そこで失言に気づいた。 この言い方ではオレもしてもらったことがあると公言しているようなものだ。 「最近はしてもらっていないからな!え、円堂はよくやってもらってるけど」 最近は、だ。嘘は言っていない。・・・円堂、すまん。 「風丸の詮索はまた後だ。今はロココだろう、行くぞ」 円堂を生け贄にしようとしたが鬼道には通じなかった。 しっかり釘を刺された後に大人数で部室へと向かったわけで。 乱暴に扉を開けたことに憤慨するごんべだが、全員の視線はロココの姿勢に釘付けだった。 制服姿のままだったごんべのスカートの上に頭を置いて寝そべったロココ。柔らかそうな腿が頬に当たっているのを見ては穏やかではいられない。 それは豪炎寺たちも同様だったが、相手は円堂と同じく純粋そうなロココだ。これが吹雪だったら問答無用で引き剥がすが。 「ねぇゴンベ、続きしてよ」 「じゃあ反対向いて」 「はーい」 突然全員が押し寄せて驚いていた二人だったが、マイペースなロココが続きをせがんだ。 ごんべの言葉に素直に返事を返したロココはごろんと寝返りを打ちーーー。 「なっ!?」 こちら側に向けていたロココの顔が、ごんべの方へ向いた。さらに。 「これだとちょっと見づらいから、こっち」 ぐっとロココの頭を抱え込むように腹部に押しつけた。 再開された耳掻きを前に、わなわなと手が震える。 なんて、なんて羨ま・・・じゃない、破廉恥だ! だがごんべにもロココにも他意がないのが解っているため、何も手を出せない。 時折ロココから漏れるあーだとかうーだとかの恍惚とした声。そんな声が出てしまうのも仕方がない。ごんべの耳掻きの腕はまさにゴッドハンドなのだから。 それもこれも円堂がロココを促すからこうなったんだ、と円堂を見る。 「ごんべの耳掻きいいだろー」と暢気に笑っているものだとばかり思っていたのに、円堂はこの上なくぶすくれていた。 「円堂・・・?」 唇を突き出して頬を膨らませる円堂に声を掛けると、円堂はずるい、とこぼした。 「ずるい・・・。あれ、いつもはオレにしてくれるのに」 「ずるいって、円堂が薦めたんだろう」 「そうだけど、ずるいっ」 ずるいずるいと連呼しながらも、円堂は両耳の耳掻きが終わるのを辛抱強く待った。 そしてごんべが綿棒を耳から離して、耳垢を纏めていたティッシュに共にくるむ。終わったということだ。 それに名残惜しそうにロココが身を起こす。 「もう終わり?もうちょっとやってよゴンベ」 「だめだ!ロココはもう終わりっ。次はオレやってくれよごんべ!」 だっと突進した円堂が次は自分だと主張する。だがごんべは眉を潜めた。 「守は一昨日したじゃない。そんな頻繁にすると皮膚を痛めるからダメ」 「う・・・っ」 円堂、おまえ一昨日してもらったのか・・・! 「ねぇゴンベ、もう一回!」 「だからロココはダメだって!」 「ダメなのはマモルでしょ?ねぇねぇゴンベ〜。なんなら膝枕だけでいいからさ!ゴンベの膝柔らかくて気持ちいいね、いい匂いもするし」 「「「それはアウトだロココ!!」」」 「ごんべの膝が気持ちいいことはオレが一番知ってるんだからな!」 「「「円堂も黙るんだ!!」」」 つい豪炎寺、鬼道とハモってしまったが、仕方ないだろう。何てことを臆面もなく言い出すんだこの二人は! ごんべは子供二人が喧嘩してるなーと言わんばかりの顔で傍観しているが、聞いてるこっちはたまったものじゃない。 豪炎寺と鬼道と顔を見合わせ、頷く。言葉はいらなかった。 豪炎寺がロココを押さえ、オレが円堂を引きずる。鬼道はごんべに嗜みが云々と説教担当だ。 他のフィディオやエドガーより安全だと思っていたが、とんでもない思い違いだった。 むしろ、天然でやる分質が悪いぞロココは! ロココたちが帰国するまで、どうやら一時たりとも気を抜けないらしい。 ___ 斎さんリク「ロココに甘い幼なじみ主と、ハラハラするイナズマジャパン」でした。あれ、イナズマジャパン・・・?まだ来日当日で吹雪が不在でした、すみません・・・!そしてハラハラというよりギリギリになってしまいました。 企画への参加ありがとうございました! 2011.12.12 Back |