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アフロディの初恋


雷門中生徒会副会長兼剣道部主将、名無しごんべ。
頭脳明晰、容姿端麗、運動神経抜群、さらに実家が剣道の道場である彼女は、師範代である祖父より厳しく躾られており、大変男前な性格をしていました。


「あああああ、なんて美しいんだごんべ・・・!僕を抱いてくれたまえ・・・!!」

美しいものが大好きもちろん美しい僕も大好きさなアフロディは、初めてごんべを見た瞬間激しい雷が体を打ち、それ以来寝ても覚めてもごんべごんべごんべで頭が埋め尽くされ、もういっそ女になって抱かれたいと人目をはばからず公言している。


「アフロディくん、どうしたの。なんだか震えているようだけど」
「ああごんべそんな他人行儀で呼ばないで照美と呼んでくれ、そしてそうだよ僕は体調が悪いんだだから保健室に行こう。ベッドで君が優しくしてくれればこの震えも治まるから、いや激しくてもいいんだけどねふふふふふ」

ごんべの腕に自分の腕を絡めてしなだれかかり上目遣いのアフロディ。
端から見れば儚げな美少女だが言ってる内容は全然儚くない。むしろ盛りのついた猫のようである。
ちなみにここは廊下のど真ん中。宇宙人に校舎を破壊されたことのある雷門中の生徒たちは危機回避能力に長けているため、周囲にはすでに誰もいない。


「よく解らないけれど、私が役に立てるなら喜んで。じゃあ保健室に行こうか」
「僕は今日君の腕の中で女になるよ・・・!」
「照美くんは男の子だろう?」
「な、名前を呼ばれた・・・!!」


体調が悪いと思っているごんべがアフロディを支えるために腰に手を回し名前を呼んだせいで、アフロディの腰が砕けた。
その場に崩れ落ちるアフロディをごんべが慌てて抱き止める。


「大丈夫!?早く保健室へ行こう」

ちょっとごめんね、と一言断ってから、ごんべはアフロディを抱き上げる。いわゆるプリンセスホールドというやつである。
細身とはいえ14歳の男を抱き上げるその腕力は並ではない。

そんな並ではない彼女に抱き上げられたアフロディの体はもう暴走寸前。

すぐ近くにある真剣な表情をしたごんべにリミッターが振り切れ、がばりとその首筋に抱きついた。


「っごんべ、もう我慢できない、ここで犯しぐはぁッ!!」
「照美くん!?・・・て、夏未?何をしてるの」



「貴女を助けてあげたのよ。さ、彼を降ろしなさい」


こんな廊下の真ん中であわや大惨事かと思われたところで、生徒会長であり権力者の雷門夏未の救いが入る。


丸めた冊子で叩いたにしては盛大すぎる威力にアフロディは完全に落ちた。
それを付き人に「捨ててらっしゃい」と指示した後、夏未は友人に向き直る。


「ごんべ、貴女わたしが来なければ危険だったのよ。解っているの?」
「いや、体調が悪いというから、助けるのは当然でしょう?」
「彼は体調が悪いんじゃないわ。悪いのは頭よ」
「なら頭を叩くのは逆効果だったんじゃないか」
「あれでいいのよ」



未だに心配そうにしているごんべに、夏未は頭痛を覚えた。
生徒会副会長でもあるごんべは夏未にとって数少ない友人であり、また片腕として信頼もしている。

ただこの体質だけはどうにかならないものか。


厳格な祖父に育てられたごんべは、とても中学生には思えないほど落ち着き払っていて、凛々しい。背も高くその切れ長な目つきと相まって中性的な雰囲気を持っていた。

そしてそんな彼女は困ったことに、癖のある人物に異常なほど好かれやすかった。
さらに困ったことに、彼女はとても押しに弱く、鈍い。

さっきも夏未が来なかったらどうなっていたか。想像したくもない。


「どんな治療かは解らないけれど、夏未が言うのだから間違いないんだろうね。その冊子は今度の会議の資料?」
「・・・ええ、そうよ。少し相談したくて探していたの。生徒会室に行くわよ」
「解った」


こちらの気も知らずにこやかに笑う友人に、頭痛は悪化するが、それでも夏未はこの友人のことをそれなりに気に入っているので。

とりあえず安全が確保できる生徒会室で匿うことにした。