「風丸との絡み」 |
食事も終わり就寝前の時間、自室に割り当てられた部屋でサッカー協会に提出する書類を作成していた。 なんと言っても国際大会だ。国の威信を賭けていると言っても過言ではない。なので選手のデータ、練習メニュー等の報告義務がある。 わたしが関わっていることをデータ入力してから久遠監督に上げ、監督が最終的な書類をつくる。 今日やったことと気づいたことを入力し終わったとき、部屋にノックがあった。 「ごんべ、ちょっといいか」 聞きなれた声に即座に返事を返し、データを上書きしスリープモードにする。 椅子を回転させ向き合った。 「どうしたの一郎太」 「風呂に入ってから肘の辺りに違和感感じてさ。見てもらえるか」 「わかった。ベッド座って」 まだ乾かしていないのだろう、湿った髪のままやってきた一郎太をベッドに座らせ、二の腕まで袖を捲る。 「押さえるから痛かったら言ってね」 「ああ」 特に腫れも熱もない。 押して痛みがあるわけでもないが、捻ったときに違和感があるという。 今日の練習で壁山くんと接触した際に転倒し手を付いていたから、その時に痛めたのだろう。 入浴により血行がよくなって気になるようになったのだと思う。 「今夜は冷やしてテーピングしとこうか。ちょっとこれで固定してて」 冷凍庫から氷を出し袋に入れ空気を抜く。 それを患部に密着させ固定していく。 「ありがとな」 「明日またテーピングするから、朝また来てね」 「ああ、わかった」 使ったテープや鋏を片づけ、さっき畳んだばかりのタオルを持ってくる。 「ごんべ?」 「髪ちゃんと拭かないと風邪引くよ」 「そんなの自分でやるからいいって」 「その腕で?」 「う・・・っ」 片腕では髪を拭くのは無理だろうと言えば、一郎太は渋ったものの最終的には黙って頭を差し出した。 座ったままの一郎太の髪を膝立ちになり拭いていく。 粗方水分が取れたら今度はドライヤーだ。 「髪伸びたね」 「基本的には伸ばしっぱなしだからな」 「女の子に間違われるの嫌なくせに、切らないんだよねぇ」 ベッドに上がり後ろから乾かしていく。 昔から可愛くて女の子に間違われていたせいか、一郎太は本当に嫌がる。女の子に間違われて喜ぶ男の子なんていないと思うけど。 「ごんべだってオレの髪かまうの好きなくせに」 「そうなのよねー、一郎太の髪つやつやで気持ちいいもの」 「昔からよくいじるよな」 「一郎太の髪好きなんだよね。嫌だった?」 「・・・別に、もう慣れた」 しっかり乾いたのを確認してからドライヤーを切る。量がある髪を手櫛で纏める。 「髪切らないの?」 「・・・ごんべはどっちがいいんだよ」 水分の重みで真っ直ぐだった髪はもう緩やかに波打ち始めている。 それを指の間で感じならグラウンドを走る姿を思い浮かべた。 「そりゃこのままかな。一郎太の髪色って珍しいし、走ると靡くでしょう。だから遠くからでもすぐに見つけられるし」 だから出来れば切らないで欲しい。 「仕方ないな」 そう答えた一郎太の顔は見えなかったけれど、優しい声をしていた。 「で、おまえはいつまで人の髪触ってるんだ」 「いいじゃない、もうちょっとだけ」 「ごんべのちょっとは長い・・・って、そこ触るなよっ」 「耳の後ろ?昔からここ弱いもんね」 「おいっ、くっ・・・!やめろ!」 耳の裏を小指が掠めてしまったとき、ビクンと肩が跳ねた。思い出した弱点についいたずら心が沸き上がり、今度はわざとそこをくすぐるようにして触れる。 「ほらほら、じっとしてないと。せっかく腕固定したんだから」 「・・・っ覚えてろよ!」 体を捩り指から逃げようとするものの、片腕が固定されているせいで対した抵抗にならない。 とはいえもう片腕で叩き落とすことも足を使って逃げることも出来る。それをしないのは一郎太もまたこのじゃれあいを楽しんでいるからだろう。 ただあまりやりすぎると今度は本気で拗ねてしまうのでほどほどにしておかないといけない。 段々赤くなっていく一郎太の耳を見ながら、もう少しだけいいかな、と指を動かした。 ___ 人目がないところでは甘い風丸さん。リクエストありがとうございました! Back |