壱万打御礼企画 | ナノ
「豪炎寺、鬼道、風丸、吹雪が幼なじみ主を取り合い」

「最近僕、よく眠れないんだ」


そう言ってへにゃりと眉を下げた士郎くん。
FFIアジア予選の最中、それはいただけない。


「いつから?」
「ここ三日位寝付きが悪くて・・・」


士郎くんは結構ストレスを抱え込む性質だから、それが原因かもしれない。
ただえさえハードな練習に激しい試合が続く中、寝不足は集中力を奪うから危険だ。

あまり続くようなら久遠監督にも相談して必要であれば病院に連れていった方がいいかもしれない。


「あのね、ごんべちゃん。お願いがあるんだ」
「お願い?」
「今日一緒に寝てくれないかな。ごんべちゃんとならよく眠れる気がするんだ」
「そう?なら・・・」



「ちょっと待て吹雪!ごんべも安請け合いするな!」


そんなことでいいなら試してみようか、と返す前に一郎太が声を張り上げた。


「前にも言ったけどごんべは吹雪に甘すぎる、もっと警戒しろっ」
「でも人の体温とか鼓動は安心するらしいから、子供を寝かしつけるのに添い寝は有効だっていうし」
「吹雪は子供じゃないだろう!」
「そんなことないよ、僕子供だよ」
「吹雪・・・!」


甘すぎるというのは自覚しているけれど、それは士郎くんに限ったことではないし選手のケアも仕事の内。
実際他人の体温や鼓動を感じることで安心を覚えるのは本当だ。



「大体ごんべは女子なんだぞ、頼むから自覚してくれ!」



しかし一郎太はダメの一点張り。

一郎太が心配しているのはわかるけれど、わたしももちろん士郎くんにもそんな気は一切無いのだから杞憂というものだろう。

早くに家族を亡くした士郎くんはまるで母のように姉のように慕ってくれているのだから。




「もう、風丸くんは厳しいなぁ。別にいいじゃない初めてじゃないんだし」
「ちょっと待て吹雪。どういうことだ」



士郎くんの言葉に今度は豪炎寺くんが反応した。
ただえさえ鋭い眼をさらに細めてわたしと士郎くんを交互に見てくる。
その目は事実かと問いかけてくるため素直に頷くと、驚愕にカッと目が見開く。


そんな豪炎寺くんに誤解のないよう、エイリア学園との戦いの最中わたしが途中離脱したときのことを話して聞かせる。
話し終えるとそれまで静かにしていた豪炎寺くんの両手が伸びてきて、がっちりと肩を捕まれた。



「すまない、オレがいなかったばかりにそんな目に・・・」
「豪炎寺くんのせいじゃないよ。それに今はほらこんなに元気だし」



自身がいなかったことでわたしが駆り出され倒れる羽目になったのだと自分を責めているのだろう。
苦しそうな表情の豪炎寺くんの手を握ろうとすると。



「いや、オレのせいだ。オレがいれば吹雪にそんな真似はさせなかった」
「・・・うん?」



なんか話が違う気がする。
もしかして、倒れたことじゃなくてその後のことで自分を責めてる?
いやいや、そんなこと豪炎寺くんがする必要はないから違うだろう。


「大丈夫だ名無し。おまえはオレが今度こそ守る」
「あー、ありが、とう?」
「今夜はオレの部屋で寝るといい。大丈夫だ、名無しは何も心配しなくていい」


真剣な表情で守ると告げられ、よくわからないがとりあえず感謝の言葉を返してみたものの。
あれ、なんだろう。どうしてわたしが部屋を移るってことになったのだろう。



「豪炎寺まで何を言ってるんだ!」
「何かおかしいか」


変な流れになってきたことに気づいた一郎太が今度は豪炎寺くんにストップをかけるが、当の本人は首を傾げるばかりだ。


噛み合わない会話を始めたため気が逸れた豪炎寺くんの手から力が抜ける。
それに気づいた士郎くんがすかさずその手を外させた。



「豪炎寺くんずるいよ。ごんべちゃんと寝るのは僕なんだからね」
「吹雪はだめだ。危険だ」
「その点は同意するが、豪炎寺の部屋もだめだ」
「そんなこと言って風丸くんこそ幼なじみを盾にして色々してるんじゃないの」
「なっ、してない!」



ついには三人でにらみ合い始める。


士郎くんの寝不足解消方法を考えていただけなのに、どうしてこんな事態になっているのか。


考えてもわからないため、一番頼りになる人に視線を送ってみる。
すると彼は心得たとばかりに口角を上げた。




「おまえたち馬鹿なことを言うな。名無しが困っているだろう」
「鬼道・・・」
「鬼道くん・・・」



ああやはり鬼道くんは頼りになる。
そう思って安心したのもつかの間のことだった。



「名無しはオレの部屋で寝かせる。オレと春奈で名無しを挟んで寝れば問題ないだろう」
「お兄ちゃんナイスアイディア!」


そんなドヤ顔向けられても、何がどう問題ないのかわからない。

手を叩いて喜ぶ春奈ちゃんには悪いが、あのベッドに三人川の字はどう頑張っても無理だ。

というか本当にいつの間にわたしの寝場所の話しになったのか。そもそもは、そう。士郎くんの安眠の為誰かと寝るという話しだったはず・・・・・・そうだ。





閃いた考えに一人頷いて、いがみ合う四人の注意を引くため手を叩く。


「士郎くんは寝不足解消の為に人と寝たい、一郎太と豪炎寺くんはわたしが一緒なのはだめ、ってことでいいね?」
「うん」
「ああ」
「そうだ」

「で、鬼道くんと春奈ちゃんは・・・」
「ごんべ先輩と一緒に寝たいです!」
「そういうことだ。春奈の願いだからな」


よし、了解。


「じゃあ士郎くんは一郎太か豪炎寺くんの部屋で寝て、春奈ちゃんはわたしの部屋で寝よう。これで解決」
「えっ」
「なっ・・・」
「そんな・・・」
「オレはだめなのか!?」
「やったぁ!」



これで士郎くんは暖をとれる。男の子同士だとベッドが狭いだろうけれど幸い士郎くんは小柄だしぎりぎりどうにか。
一郎太も豪炎寺くんも男女で寝ることを危惧していたからこちらも問題ない。
で、春奈ちゃんと寝るのは何も問題ないし鬼道くんには悪いけれどあのベッドに三人はどう考えても無理なので春奈ちゃんは独占させてもらおう。



「それじゃ今日はたくさん話そうね春奈ちゃん」
「はいっ!わたし聞きたいことたくさんあるんですよ。あ、じゃあ早くお風呂行きましょう。時間がもったいないです!」


腕を絡めて引っ張る春奈ちゃんに連れられてその場を後にした。その後のことは知らないが、どうやらその晩「多分今日は一人で寝るとよく眠れそうな気がする」と言って結局一人で寝た士郎くんの寝不足は無事解消したらしい。



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取り合いになっているのか不安ですが、リクありがとうございました!書き直し受け付けていますので!もちろん吹雪くんの不眠疑惑は嘘です。
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