「幼馴染主が発作を起こした時に初めて遭遇した時の風丸と円堂の心情」 |
今にも雪が降りそうな分厚い雲が空を覆う寒い日。 この日もごんべは円堂に風丸と共に連れ出されて、稲妻町のシンボルのある鉄塔の下でサッカーをしていた。 「なぁ、ごんべもやろうぜ!」 「うーん、寒いし、咳出てるし、今日はやめる」 「やってたらあったかくなるって!な、風丸?」 「でも、むりやりはやめたほうが・・・」 備え付けのベンチに腰掛け、もこもこと着込んだ上に口元までぐるぐるにマフラーを巻き付けたごんべに円堂が声を掛けるがやんわり断られる。 それでも食い下がる円堂を風丸が窘めた。 「それに、今の時期は日が暮れるのが早いからそろそろ切り上げよう?」 「えー!オレはだいじょうぶ!風丸も平気だよな?」 「え、う、うん」 円堂にぐっと詰め寄られた風丸は、その勢いに思わず頷く。 以前と比べれば明るくなった風丸だが、こういう押しの弱さは相変わらずだ。 「でもわたしはそろそろ帰るから、二人もあんまり長居しちゃだめだよ」 そう言って腰を上げたごんべの腕に、円堂が慌てて飛びついて再び座らせる。 「もうちょっと!いいだろごんべ!?」 まるで母親に強請る子供のようなその姿に、ごんべが絆されてため息をつくのはもう何度目になるのか。 いけないと解っていてもつい甘やかしてしまう。 それでもこうやって必要としてくれるのが嬉しくて、つい頷いてしまうのだ。 これが間違いだったと気づいたのはそれからどれだけ経った頃か。 すっかり日も暮れ足下のボールも見えなくなった頃、ようやく満足した円堂は風丸に声を掛けてごんべの待つベンチへ戻ってきた。 しかしいつもなら優しく笑って迎えてくれるはずのごんべは何故か座ったままで身体を折り、何の言葉もくれなかった。 どうしたんだろうと不思議に思って近づけば、耳につく変な音。 テレビの砂嵐のような、ザーザー、ゼーゼーといった音。 「ごんべ?」 「ごんべちゃん?」 二人で顔を見合わせ、円堂がごんべの肩を叩こうと腕を伸ばした瞬間。 ぐらりとごんべの身体が傾き、そのまま正面に倒れ込んだ。 「ごんべ!?」 「ど、どうしたの!?大丈夫!?」 慌ててしゃがみこんで様子を見れば、ごんべは青白い顔をして胸元を押さえていた。 歪められた口元からは先程から聞こえていた変な音が漏れている。 円堂と風丸が名前を呼んで肩を揺すっても、苦しげに身じろぎするだけだ。 「・・・っオレ、母ちゃん呼んでくる!頼んだぞ風丸!」 「う、うん・・・っ」 どうしたらいいのか解らなくて、でもどうにかしなきゃいけないことは感じ取った円堂がだっと走り出す。 走りながら風丸に声を張り上げれば、風丸が頷いた。 いつも通っている道なのに、今日はやけに遠く感じる。 (どうしよう、どうして、ごんべ、なんで・・・!) ずっと一緒に育ってきたけれど、あんなごんべは始めて見た。 あんな、あんなーーー。 倒れたごんべを見たとき、頭の中が真っ白になった。 触れた頬は冷たくて、怖くなった。 もしこのまま、ごんべが目を開けてくれなかったら。 一瞬脳裏をよぎった考えに慌てて首をする。 そんなことない。ごんべが自分の前からいなくなるなんて、絶対ない。そんなの、絶対嫌だった。 河川敷を抜け住宅街に入り、自宅の玄関に転がり込むように上がる。 「ちょっと、守、あんたもう少し静かにーーー」 「母ちゃん、助けてくれ!ごんべが、・・・ごんべがたおれて、返事してくんないんだよぉっ!」 あまりの騒々しさに台所にいた母親が顔を出し、騒音の音が息子だと知ると眦を釣り上げ叱ろうとしたが、その前に円堂が叫ぶように言った。 その言葉に彼女は怒りと手に持っていたお玉を放り出し、息子の先導の元、外へ飛び出した。 *** 「ごんべちゃん、ごんべちゃん・・・っ」 呼びかけても揺さぶっても反応はなくて、むしろどんどん悪化していく様子に泣きそうになる。 どうしたらいいのか解らず、その場に座り込んでただ名前を繰り返し呼んだ。 風丸にとってごんべと円堂はヒーローだった。 明るくて強くて優しくて、臆病な風丸に手を差し伸べてくれた。 だけど、今。 そのごんべは倒れて、とても苦しそうにしている。 彼女は・・・とても弱くて、壊れてしまいそうに見えた。 なのに風丸は何も出来ない。どうしていいのか解らない。 風丸はこんなに弱ったごんべよりも、弱い。 *** あの後ごんべは病院に運ばれ、円堂と風丸は円堂の母親に叱られた。 ごんべちゃんは身体がそんなに強くないんだから、無理させたらダメよ、と念を押され、二人で半泣きになりながら頷く。 二人が反省しているのが見て取れたため、そこでようやく面会の許可が下りた。 すぐさま病室に駆け込んだ二人に、もう身体を起こしていたごんべが目を開いて、ついで苦笑する。 円堂も風丸ももう殆ど泣いていて、ぐちゃぐちゃな顔をしていた。 「ごんべ、ごめんな!オレ、わがまま言って・・・」 「ごんべちゃん、ぼく、なにもできな、かった・・・」 「自己管理のなってないわたしも悪いから。だから泣かないで?ほらもう、二人とも顔凄いことになってる。守は鼻もかんで」 よしよしと撫でれば逆効果だったようで、ついには声を上げて泣き出してしまう。 「ごんべっ、おれもうっわがまま言わな、いから!」 「そんなこと言わないで。守のわがまま聞くの好きだよ」 「ぼく、もっと強くなるよ!それで、ごんべちゃんのこと、守るっ」 「ありがとう、嬉しい」 うあああんとベッドに乗り上げてごんべにしがみつき、嗚咽混じりに言われた言葉に思わず頬を緩める。 子供体温でただえさえ暖かい身体が、泣いているせいで余計に熱い。 ゆったり身体を揺らす内に鳴き声は収まり、次第に寝息に変わる。 その熱を甘受しながら、ごんべはそっと目を閉じた。 ___ 最後締まっていないような…すみません、いつでも書き直ししますので!リクエストありがとうございました。 Back |