壱万打御礼企画 | ナノ
「最近幼なじみ主が皆に取られてちょっと寂しい円堂or風丸」


チームトレーナーという名目でここにいるものの、仕事内容としてはそれだけに留まらない。

サッカー協会本部及び日本のサッカー協会に向けた書類を纏め、支給される援助金を消耗品、食費、設備等割り振りそれをマネージャー陣に降ろし各自やりくりしてもらう。

選手たちの健康チェックのデータに目を通しながら練習メニューを時には切り替え調整し、また監督と選手との間に入り指示を受け指示を出すこともある。

練習中は選手一人一人の様子を直にチェック。


鬼道くん、不動くんの司令塔コンビとフォーメーションの相談。

飛びついてくる士郎くんの頭を撫でながら染岡の足にテーピングを巻き。

豪炎寺くんと虎丸くんの連携技の精度を上げるためデータを取り。

秋たちとドリンク作ったりとやることはたくさんある。


雷門中でほとんど機能していなかった頃と比べれば雲泥の差だ。


「ごんべ先輩・・・」


そんな日々の中、ふらりと現れた春奈ちゃん。



「うう、お兄ちゃんごめんなさいっ」



この場にはいない鬼道くんに対しなぜか謝罪したあと、わたしの腕をがっしり掴んで脱兎の勢いで走り出した。


「わたしだってお兄ちゃんの応援してるけど、してるけど放っておけないんです〜!」
「ちょ、まっ、春奈ちゃん!?」



「あ?なんだあれ」「名無しと音無か」「ごんべの奴引きずられてねーか」などと流れる視界の端で染岡たちが変なものを見るような目をしていた。引きずられているのが解っているなら止めてほしい。


そのまま宿舎近くの浜辺まで走り、ようやく足が止まる頃には久しぶりの全力疾走に息が上がっていた。



「ああっ、ごんべ先輩ごめんなさい!」
「ごんべちゃん大丈夫っ!?」
「あ、秋・・・、大丈夫だけどこれは一体何事・・・?冬花ちゃんまで・・・」



砂の上に膝をついて呼吸を整えながら顔を上げれば今はいない夏未を除いたマネージャー陣が首を揃えていた。

三人は顔を合わせると、頷いた冬花ちゃんが説明してくれる。



「実は守くんが・・・」





***




「あんな円堂くん見ていられなくて・・・」


太い幹に隠れながら見る先には、しょんぼりと肩を落とす守とそれを慰めるように肩を叩く一郎太。

痛ましい、と言わんばかりの秋に、春奈ちゃんも冬花ちゃんも大きく頷いた。


冬花ちゃんが言うに、まあ、何か寂しくなっちゃったらしい。

ここの所、特にライオコット島にきてからは特に忙しくなり今までは大半の時間を共有出来ていたのに急激にその時間が減り、寂しくなってしまったそうな。


けれどわたしも遊んでいるわけではないし、強くなるには仕方ないしと守なりに葛藤しつつ我慢していたらしい。



「ごんべさんに話しかけに行っても、忙しそうだからって話せずに戻ってくるの・・・」
「その度にキャプテンしょんぼりしてて・・・」
「風丸くんが励ましてたんだけど、もう限界みたいなの」



確かにいつも元気な守がこんな風にしょげていたら秋たちが心配するのも無理はないだろう。
それにしても・・・。



「守ったら可愛いことを・・・」
「そうなんですよ!」
「でも偉いわ、我慢を覚えたのね・・・」
「前はごんべちゃんの都合お構いなしだったのに、円堂くんも成長してるんだね」
「守くん、実は寂しがり屋だったんですね・・・」



女には多かれ少なかれ母性本能が備わっているという。今ここにそれが遺憾なく発揮されていた。


守には悪いけれど、わたし含めた女子四人は胸をきゅんとさせしばしそのまま見守ることにした。







「円堂も我慢してたんだけどな」


木の陰から覗く人影に気づいたのは一郎太だった。


「何してるんだ」と呆れられ、ようやく我に返った秋たち三人は誤魔化すように笑った後仕事があるからと宿舎に戻った。逃げたとも言う。

見られていたことを知った守は驚いた後、ばつが悪そうに視線を泳がせて両手の人差し指をくっつけた。
曰く、


「なんか、ちょっと前まではずっと一緒だっただろ?でも最近ごんべとちゃんと話せてない気がしてさ」


子供みたいなことを言っている自覚はあるらしい守は気まずそうだ。


「なんかごんべを盗られちまった気がして・・・」
「円堂の言うことも解るぜ。やっぱり今まで側にあったものがなくなると寂しいよな」


確かに物心つく前から一緒にいたから、それも仕方ない。
実際わたしも気づかなかったが結構寂しかったらしい。忙しさに翻弄されて考えることもなかったが、こうして守と一郎太というお馴染みの三人になって初めて気づいた。


バンダナで上げられた髪の上に手を乗せれば、訝しげに見上げる守。



「まだみんなには伝えていないんだけど、久遠監督が近々休養日を設けようって」
「そうなのか!?」
「だから、よかったら一緒にどこか行かない?一郎太も」



このライオコット島は出場国ごとのエリアに分かれ、それぞれその国を模して設計してある。
まだ行っていないエリアに観光を兼ねて覗いてみるのもいいだろう。


「ああ!もちろんだ!」
「たまにはいいな」


ぱあっ!と輝いた顔でいい返事をする守に、一郎太も同意。


しょんぼりしている守も可愛いけれど、やっぱりこうして笑っているのが一番いい。


その後与えられた休日だったが、他国の選手たちの練習を見かけた守のテンションが上がってしまい、観光もそこそこに一郎太とわたしの腕を引っ張り日本エリアにとんぼ返り。

幼い頃のように三人でボールを囲んで練習するのは本当に久しぶりで、観光よりもよほど楽しかった。

休んだとは言えないけれど、これはこれでいい気分転換になった。

その証拠は守の笑顔。


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あまり円堂さんとも風丸さんとも関わってない…。すみません、マネージャーたちといじらしい円堂さんを見守る図が思い付いてしまいこうなりました。書き直し受け付けますので!
企画参加ありがとうございました!
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