壱万打御礼企画 | ナノ
「ロココと円堂」




「君がゴンベ?会いたかったよ!」



褐色の肌に大きな目。
どことなく守を彷彿させる笑顔で、ロココは手を差し伸べた。



「え、ロココってごんべのこと知ってたのか?」



わたしの感じた疑問をそのまま言葉にする守に、ロココは大きく頷くと夏未を振り返った。


「ナツミから聞いてたんだ。マモルのお母さんだって!」


輝かんばかりの笑顔で言い放たれた言葉に、一瞬で場が凍り付く。
ロココの後ろではダイスケさんが吹き出していた。



「・・・・・・夏未?」
「わ、わたしはそう呼ばれることもあるって言っただけでっ」



つい、と視線を夏未に滑らせどういうことかな?と言外に問いかければ、彼女にしては珍しく狼狽した様子であたふたと弁解する。

確かに、雷門中ではそう呼ばれることもある。雷門中だけでなくてイナズマジャパン内でもそう呼称されているのも知ってはいるけれど。



「マモルのお母さんってことは、ダイスケの娘だよね。でもマモルにもダイスケにも似てないね」
「・・・・・・夏未」
「・・・ごめんなさい。ロココ、天然なところがあって」




わたしは断じて、こんな大きな子供を産んだ覚えはない。
そして大介さん、お腹を抱えて大爆笑しないでください。さすがにいらっとします。

天然にも程があるだろう、どう見ても同年代なのに。似ていなくて当たり前だ、一滴も血は繋がっていないのだから。付き合いの長さだけは家族並だが。




「んー、ごんべは母ちゃんじゃないけど、でも母ちゃんみたいなもんか。クラスの奴らもみんなそう言うし!」
「守、そういうことじゃないから・・・!」


大体この年齢の男の子なら、「円堂の母親」とか「名無しの息子」なんて揶揄されたら嫌がるのが普通だろうに。
にかっといつものように笑う守にこめかみを押さえる。


大介さんも悶絶してないでどうにかしてください。貴方の孫と弟子でしょう。


「へぇ。羨ましいな!」
「へへっ、いいだろ!」


これまた守に負けず劣らずいい笑顔のロココ。
そこで納得されるのもなんというか、釈然としないものがある。


確かに精神年齢はあれだが、見た目はまだまだ若さ漲る十四歳。
まるで老けていると言わんばかりの応酬になんだか悲しくなってくる。



それにしてもまるで守が二人いるみたいだ。

ロココの方が背が高く、肌の色も顔立ちも違うのにまるで兄弟のようで。
これも大介さんの影響力なのだろうか、なんて考えて少し和んでいれば。



「ねぇ、僕もゴンベが欲しいな!」



眩しいほどきらきらとした大きな目が期待を全面に押し出してこちらを見ていた。


「ダイスケ、いいでしょ?」



いやいやいや。
わたしは物じゃないし欲しいと言われても困る。


もう大介さん笑いすぎて呼吸困難になっている。もはや苦しそうだ。


その大介さんの孫は、慌てたように「だ、だめだ!」と叫んだ。


「ごんべはオレの母ちゃんなんだからな!」
「守、違う、それは違う」
「じゃあ姉さんとしてでもいいから!」
「それもだーめーだー!」
「・・・・・・」


完全に子供の喧嘩である。
もはや聞く耳持たずの二人は、まるで一つの玩具を取り合う子供にしか見えなかった。



「夏未、わたし帰ってもいい?」
「これを放って帰るつもり!?」
「だって話聞いてくれないし」
「わたしじゃ収拾出来ないからやめてちょうだい」



逃がさないから、と久々の「理事長の言葉と思ってもらって構いません」が出る位にはこの場に残されるのが嫌らしい。


でも、言わせて欲しい。
わたしの方がここにいるの、嫌。



「ロココになんとか言ってくれよごんべっ」
「ねぇ僕じゃだめ?ゴンベ!」



そうこうしている間に両脇をがっちり掴まれ左右から揺さぶられる。

これが幼い子供ならば可愛げもあるが、同じ年頃の、しかも片方はわたしよりもはっきり背が高い男の子たちである。
さらに二人とも世界屈指のGK。握力も半端じゃない。



「痛い痛い、というかなんか揺さぶられすぎて気持ち悪くなってきた・・・っ」
「離れろよロココ!」
「嫌だよ、マモルこそ今まで一緒だったんだろ?譲ってよっ」
「ちょっと円堂くんもロココもいい加減に・・・っ」


ゆさゆさ、ぐいぐい。
右へ左へ視界がぐるぐる回りだした頃、実際に音に出ているわけではないのだろうが。
耳の奥でプチンと糸が切れるような音がした。






「守、ロココ。そこに正座しなさいな」





抑揚のない平坦な声に、今までぎゃんぎゃん言い合っていた二人はさっと口を噤んだ。

そして指された床の上に守がしゅばっと正座する。さすが幼なじみ、長い付き合いなだけに身体に染み込んでいるらしい素晴らしい反応の早さだ。
よくわからないなりに何かあらがいがたい圧力を感じたらしいロココも、守の隣りに見よう見まねで座った。




「二人とも、ここが何処か、解る?」
「す、スタジアムの廊下です」
「正解よ守。じゃあロココ、ここは無人の廊下?」
「いや・・・一般の人たちもいる・・・ます」
「二人ともよく解っているみたいで何よりね。さて、ではここはこんな風に騒いでいても迷惑にならない場所?」
「迷惑になる場所です・・・」
「また正解ねロココ。守、わたしは物か何かなの?」
「ごめんなさい!」
「ゴンベ、ごめん・・・」



素直に頭を下げる二人。
その姿に溜飲も下がりため息を一つつくと、紺と茶の二つの頭にそれぞれ片手ずつ置き一撫でする。

それが許しの合図だとよく知る守はほーっと深く安堵の息を吐き出した。
ロココも始めはきょとんとしていたが守の様子からようやく肩の力を抜く。



「ねぇゴンベ。もうしないから、もう一度撫でてくれないか?」
「頭を?別にいいよ」



それだけで大人しくしていてくれるならお安い御用だ。

特徴的な髪型を流れに沿って撫でる。見た目通りつやつやの髪は一本一本が太くコシもしっかりしている。



「ごんべ、ごんべ、オレも!」



ロココへの対抗意識からか最近は強請ることもなくなっていた守が主張してくる。
仕方ないな、と手を伸ばし、二人の頭をわしゃわしゃかき回した。

きゃんきゃん笑う二人の後ろで、大介さんが「本当に母親みたいだなぁ」なんて人事のように笑っていた。



確かに。
でもまぁこんな可愛い子供なら有りかもしれない。



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難産でした・・・。なんかロココちゃんのキャラが解らなくて、結局天然にしてしまいました。アニメ見てるとそうでもないんですが、うちではこれで・・・。円堂×2です。
大変お待たせしました!企画参加ありがとうございました!
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