壱万打御礼企画 | ナノ
「ヒロトとの絡み」

基山ヒロトの朝は早い。




まだ日が昇る前から起き出して隠し撮りしたごんべの写真を見つめる。制服姿、体操服姿、胴着姿と舐めるように見つめ、時折モーニングキス。


たっぷり10分、朝の活力をチャージした後はスケジュール帳をチェックする。


ビジネスマンもびっくりな程事細かに書き込まれた予定に目を通す。

もちろんヒロトの予定ではない。
剣道部員やごんべのクラスメイトを時には買収、時には誠心誠意お願い(という名の脅迫)して手に入れた彼女の今日一日の予定だ。
彼女のクラスの時間割ももちろんチェックしてある。



その後余裕を持って朝食を取り学校へ。


いつも時間ぴったりにやってくるごんべに今日も朝一番の挨拶をする為だ。



「やあ、おはようごんべさん」
「ああ、基山くんか。おはよう、いつも早いね」
「ごんべさんこそ」


こうして偶然を装って短いながらも他の誰よりも早く会話を交わした後、剣道場に向かう彼女を見送りその足で生徒玄関に向かう。


そしてごんべの下駄箱の前に立ち、深く息を吐いた。



「全く・・・。こりない奴らだ」



やれやれ、と鞄から持参したゴミ袋を取り出して、所狭しと詰め込まれたヒロトからするとゴミーー世間一般的にはプレゼントや手紙ーーをぽいぽいと躊躇いなく放り込んでいく。


綺麗になったのを確認し、今度はごんべの教室へ。


そこでも下駄箱同様に、ごんべの机の上にも中にも置かれたものたちを次々とゴミ袋へ投げ入れ、ようやく朝一の仕事を終える。



毎朝こうしてゴミを回収しているのに、それでもヒロトが朝練だったり移動教室だったりの隙に入れられごんべの手に渡ってしまうのだから困ったものだ。


それからまだ誰もいない道場で凛々しく竹刀を振り降ろすごんべの勇姿を影ながら時間ぎりぎりまで見守り、サッカー部の朝練へ向かう。




これが基山ヒロトの朝である。





***




「・・・これはゆゆしき事態だわ」


生徒会室という名の夏未の第二の私室で、夏未と染岡は頭を抱えていた。


先日とある生徒たちから匿名の投書があったのだが、その内容が問題だった。


その内容は、名無しごんべへのラブレターやプレゼントが基山ヒロトにより捨てられているからどうにかして欲しいというものだった。


そこで夏未は協力者として染岡を半強制的に引き込み調査を開始した。

何故染岡なのかと言われれば、染岡とごんべは義理人情に厚く、努力特訓激突勝利を愛するもの同士意外にも波長が合い良い友人関係を築いているため、夏未もごんべに関する件では彼を信頼している。


・・・ごんべを守る盟友として。



「・・・基山の奴、まるっきりストーカーじゃねーか!」


調査の結果発覚した基山ヒロトの暴挙は、投書の件だけに留まらなかった。


ごんべの予定を事細かにチェックし、偶然を装い行く先々で出現しては一言二言交わし去っていく。
その陰で一部の生徒に脅しをかけたり圧力をかけたりプレゼントを没収しごんべの目に付く前に処分。


ごんべにとってはよく遭遇するなぁ、程度の認識だろうがこれではストーカーである。


偶然で一日に数十回も遭遇するはずがない。ごんべの行動を全て熟知しているからこその恐るべき遭遇率である。



「それと・・・。これは噂の段階でまだ確証を得ていないのだけれど」
「まだあるのかよ・・・!」
「ごんべに告白しようとした生徒を呼び出して・・・」
「その先は言うな雷門・・・!」
「しかも、吹雪くんも関わっているなんて話も聞いたわ」
「吹雪・・・っ」



嫌な予感しかせず思わず夏未の言葉を遮った染岡だが、続けて上げられた友人の名前に頭を抱えた。

友人がそんな事に関わっているだなんて疑いたくはない。
いやだがしかし、あいつなら有りえるというか絶対それは噂じゃなく真実だろ・・・!



「なんにしろ、基山くんは強敵だわ。アフロディくん位露骨ならこちらも武力行使出来るけれど、あくまでよく挨拶する程度の友人を装っているだけに質が悪いわ」
「けどどうすんだよ。オレはヒロトもそうだが吹雪にも勝てる気がしねぇんだけどよ・・・」
「ごんべを見捨てる気!?」
「違ぇよ!オレにだってごんべはまぁ、大事なダチだ。けど相手が悪いぜ」
「そうね・・・。とりあえず、生徒会関連の情報が流れないよう全てわたしが握っているのだけれど、部活やクラスの予定は・・・」



いくら夏未でも、直接所属している訳でもない剣道部のことや、他にも大勢生徒がいるだけにクラスの移動教室だとかの情報は隠しようがない。


とりあえず現場を押さえるために生徒用玄関に監視カメラを設置しようか。それならば不審者対策だと言えばいいし、なんてことを話していたとき。



軽いノックの音を響かせ、生徒会室の扉が開かれた。



「やぁ、こんにちは。お願いがあってきたんだけど、今時間いいかな?」



艶やかな赤い髪、口元は緩く弧を描いてはいるものの眼は一切笑っていない・・・。



「ヒ、ヒロト・・・!」


まさかの本人登場に染岡の腰が浮いた。

絶句する二人を気にするそぶりもなく、ヒロトは夏未の前まで歩みを進めると、同じことを繰り返し言った。



「お願い、の内容によるわね」



いくらヒロトが強敵であろうとも、夏未とて負けてはいない。これでもずっとごんべを魔の手から守り続けてきたのだ。


素直になれない自分をありのまま受け入れてくれる大切な大切な親友。
彼女を守るためなら、何だってしよう。



「ごんべさんの生徒会関連の情報、全て君が握っていることは知っているんだ。親切な人たちが教えてくれたからね」
「あら、脅したの間違いじゃなくて?」
「やだな、人聞きが悪い。それで、その情報。僕に教えてもらえないかい?」
「生徒会役員でないものに教える必要はないわ。それに、どうしてそんなものが必要なのかしら?」



真っ向から視線を切り結ぶ二人に、まるで怪獣映画を見ているような気分だったぜ・・・とは後の染岡の言である。


夏未が視線で命じると、いつからそこにいたのか忠実なバトラーが一礼して退室し扉をしっかりと閉める。



大丈夫、勝算はある。


いくらヒロトでも女子に手は挙げないだろうし、ごんべの親友である夏未にそんなことをすればごんべの心証は悪くなるだけだ。

となればヒロトの矛先は染岡に向かうしかなくなる。





・・・大丈夫、染岡くんは打たれ強いから。




そんなことを夏未が考えているとは露知らず、染岡はこの怪獣映画に巻き込まれないよう祈るばかりだった。






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とくめい!さん、リクありがとうございました。そしてこんなに遅くなってしまい申し訳有りません・・・!
久しぶりの男前につい暴走してしまいました。そしてヒロトと男前主との絡みというよりもヒロトVS夏未に火傷するオレ・・・(染岡)になってしまいました。こんなんでよろしかったでしょうか・・・?
書き直し受け付けますので!ありがとうございました!
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