NOVEL
▼住むところを探そう1
危うく銃刀法違反で捕まるところだった私は急いで故郷である地下世界へ飛び、自宅に鎌を置いてきた。黒い翼は見えなくなるだけで無くなるわけではないというのが有り難い。

再び人間界に浮上してきた私は日本という国で暮らすことに決めた。何しろ私の黒髪黒目が目立たないし、治安がいい。さて、そうと決まれば住むところを探さなければならない。適当に買ったTシャツとジーンズを身に着けた私は意気揚々と『住まいさがしなら田中不動産!』という看板の店に入った。

「いらっしゃいませー。」

にこにこと愛想の良い店員に勧められ椅子に座る。人間と話すのは初めてだが、上手く話せるだろうか。とりあえず部屋の借り方について尋ねようと乾ききった口を開いた。

「あ、あの、部屋を借りるのって初めてなんですが費用ってどのくらい掛かりますか?」
「費用で御座いますね。毎月掛かりますのは管理費と家賃ですが、初期費用として2ヶ月分の敷金、2ヶ月分の礼金、1ヶ月分の前家賃、仲介手数料を合わせた額となります。物件によっては敷金や礼金がない場合もありますよ。」

丁寧に紙に書いて説明してもらったが、敷金やら礼金やらよく分からなかった。とにかく初期費用は高いらしい。お金が足りるかどうか不安だ。

「結構掛かるんですね…。契約ってその初期費用を払う以外にどうすればいいんですか?」
「ご本人の印鑑証明書と住民票と所得証明書、それから連帯保証人の方の印鑑証明書と所得証明書と保証書が必要になります。保証人がいらっしゃらない場合は保証会社を利用することもできますよ。」

印鑑証明書?住民票?所得証明書?

その言葉に大事なことを忘れていたと愕然とする。そんな書類、あるわけがない!頭の中が真っ白になるも、このまま帰るなど失礼なことはできない。私は仕方なく4つの物件の間取りや金額やらが印刷された紙を貰い、「少し考えてから後日また来ます。」という曖昧な言葉で逃げた。

まさか部屋を借りるのがこんなに大変とは…。だが天界人の中には長期休暇を使って人間界で暮らす者がいると聞いた。短期間とはいえ、一体どうやって部屋を借りたのだろうか?私は天界で買ったスマートフォンを手に取り、『人間界 部屋を借りる方法』と入力して検索した。天界は地下世界とは違って様々なものが売られているから便利だ。地下世界も見習ってほしいものである。

『お電話1つですぐご案内!ミカエル不動産』

検索結果の一番上に出てきたページに驚く。え、ミカエルってあの大天使聖ミカエル?ミカエルさん何やってるの?

まあでも他に頼る当てもないからと、書いてあった電話番号に電話を掛けた。

「はーい、お電話ありがとう!ミカエル不動産だよ!」

電話をかけると、子供のような高い声が聞こえる。とても陽気でフランクな天使のようだ。

「あの、死神のメフィと申す者ですが、人間界で借りることのできる部屋を探しておりまして…。」
「死神さん?珍しいね、死神ってなかなか忙しくて休暇とれないんでしょ?」
「まあ、強引に休暇をとってきたというか脱走してきたというか…そんな感じです。」
「へー、勇者だね!見つかったらサタンさんに殺されちゃうかもしれないのに!」
「………。」
「なーんて冗談だよ。もう黙り込まないでよー。」

なんて笑えない冗談なんだ!有り得そうで怖いよ!ガクブルだよ!

「それで、人間界のどの国希望?」
「あ、日本です。」
「やっぱり日本って地下世界人に人気だよねー。僕らは金髪が目立っちゃうから天界人には不人気だけど、春とか桜が綺麗でいいよね!」
「そうですね…。」
「安い田舎の物件と高い都会の物件どっちがいい?因みに田舎だと仕事探すの大変だよ。暫く地下世界に戻りたくないんでしょ?」
「はい、もう死神の仕事は疲れました。」
「んじゃ東京にしよっか。人多いから見つかりにくいよ。木の葉は森に隠せってね!」
「それでよろしくお願いします。」
「では案内人がそちらに向かいまーす。お電話ありがとうございましたー。」

え?案内人?どういうことか分からず頭にはてなを浮かべていると、突然目の前にボンッという音と白い煙と共に白スーツの人間が現れた。

「ご利用有難う御座います。ご案内をさせて頂きますミカエル不動産の矢部五郎と申します。」
「え?矢部?え?」
「五郎です。最もこれは人間界での名前ですが。あー、後であなたにも名前決めてもらいますから。無希望なら此方で決めさせて頂きますが、一応考えておいてくださいね。」
「あ、分かりました…。」
「では参りましょう。」

突然現れた人間に驚いたがどうやらこの人が案内人のようだ。人間ではなく天界人だったことに安心してスタスタと歩く矢部さんの後ろに着いていく。5分程歩くとまばらに車という人間の乗り物が止まっている『月極駐車場』というところに着き、その中の真っ白な車の前で矢部さんが止まった。天界人はそんなに白色が好きなのだろうか。

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