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「今から俺が言う三つの中で一番苦しい死に方はどれでしょう」
グリーンはおれに人差し指を向けて一、と言葉を紡ぐ。おれはモンスターボールを拭く作業を続けながら聞く事にした。
「首吊り自殺」
自殺前提なの?と聞けばグリーンはそう、とだけ言って話を戻す。たまにグリーンは楽しくもない、だけれどつまらなくもない話をする時がある。何を考えているのかおれには分からないからいつも話を聞くだけなのだけれど。そんな事を考えているおれを余所に、グリーンは二、と続けた。
「入水」
「それじゃあ、それで」
「もう一つあるんだから最後まで聞けよ。しかもそれじゃあって何だよそれじゃあって」
誰が好き好んでこんな気味の悪い話を続けたいと思うだろうか。それを言うとグリーンは好きでとか嫌いでとかそういう問題じゃないんだよ、と言った。一体どういう問題なんだ。少し嫌な顔をしてみせる。グリーンはそんな顔すんなって、と苦笑いを浮かべた。
「三。頸動脈を切る。おまえはどれだと思う?」
「…一か二じゃないの。三は苦しいっていうより痛いだと思う」
「うん、まあそれもそうだ。じゃあ一と二、どっち?」
首吊りは息が苦しくなるし、同時に吐き気も込み上げるんだと思う。入水したって息は出来ないし…冷たいのは苦しみに入らないんだろうから首吊りなんだろうか。自殺っていえば手首を切るだとか首吊りってイメージがあるけど実際どうなんだろう。考えるだけで吐き気がする。そんな事を考えたら死んでしまった人に失礼だ。少なからず、死んでしまった人は存在するのだから。
「……一」
「へえ、何でそう思うわけ?」
「息が出来なくて苦しいのはどっちも同じだけれど、首吊りは吐き気もすると思うから」
理由を述べるとグリーンは確かに、と頷いて俯いた。おれはグリーンの考えてる事がいつも以上に分からなくなって首を傾げると拭いていたボールがカタカタ揺れる。おれは落ち着かせるように撫でてやると少し経って大人しくなった。グリーンの顔を見ると既にグリーンはいつもの顔に戻っていて、おれに笑いかけながら有り難う、と言う。全然意味が分からなかった。

次の日になって、ナナミさんがおれの家に来た。何事かと思ってナナミさんと母さんが話している玄関に行くとナナミさんは泣いていた。母さんも顔が真っ青だ。そして泣きながらナナミさんはおれにこう告げたのだ。
「グリーンが、死んでいたの」
おれはすぐに首吊りをしたんだな、と分かって昨日の事を思い出す。あの笑顔は、話は、グリーンの助けて、という言葉だったのかもしれない。おれには何故死んだのか分からなかった。何に悩んでいたのかさえも検討がつかない。おれはグリーンに甘えるだけ甘えて、いつもグリーンに助けられていたからグリーンが悩んで苦しんでいたのにも気付かなかった。涙なんで出ない。何故ならグリーンがおれに宛てた手紙に有り難う、と丁寧な文字で書いてあったからだ。苦しいかどうか確かめてみるよ、と。あの時おれが苦しい死に方なんてどこにもないよ、と言っていればグリーンは死ななかっただろうか。手紙には涙の痕がいくつもついていた。


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